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とある秋の終わりの、とある山の、とある洞窟。 大人の人間だと立って入れないくらいのゆっくりにとっては十分な大きさで、深さ10mくらいのその最深部にゆっくりまりさとゆっくりありすがいた。 2匹とも、この山岳地帯で生きてきたゆっくりだ。 苛酷な環境で暮らすくらいなら、どこかのゆっくりプレイスに行けばいいと思うかもしれないが、この山々の地形がゆっくりたちの移動を阻んでいた。 来れたのなら行けるはず。 そう思って、ゆっくりプレイスを見つけたらみんなを呼びに帰ってくるねと言い残して旅立っていったゆっくり達もいたが、誰も戻って来る事は無かった。 外にも行けず、外から来ることも無い。 そんな中で、この辺りで生きるゆっくり達は独自にとある進化を遂げていた。 さてこの2匹、まだ成体となってからそれほどでもなさそうだというのに、かなり大きい。 大人の腰ほどまでの大きさである。 ただし、決して正常と思える大きさではなかった。 顔のパーツと体のサイズのバランスがあきらかにおかしい。 胴体だけが膨れた異様な姿であった。 そのため非常に不細工である。 それはさておき。 この2匹は見ての通りつがいである。 今、2匹は赤らんだ顔で膨れた互いの体をこすり合わせている。 だが、幾ら育ったゆっくりとは言え交尾にしては穏やかでゆっくりとしたものだ。 「んん……んぢゅちゅっ、まりさ、まりさぁ……」 「んふぅ、ゆふぅん、ありすぅ……んちゅ、ぷはぁ……」 2匹の間に粘液の橋が出来上がる。 しかし、それ以上行為は激しくならない。 今の2匹はただある時間を待っているだけだった。 今の行為も、互いの愛情を確かめ合うスキンシップ程度のものだ。 「ゆゆぅ……ありす……もうすぐだね」 「ちゅ……ぷはっ……ええ、まりさ。もうすぐだわ」 もう外に出る事も難しくなった秋の終わりの寒さの中、2匹は身を寄せて静かにその瞬間を待っていた。 それから数日後の事。 「んむ、ふ、ぶぢゅう、ぶはっ……まりさ、まりさまりさまりざあああああっ!!!」 「むちゅ、ぢゅうっ、ありず、んほぉ、んむぅぅぅぅぅっ!!!!!」 先日とはうって変わって、激しい痴態を見せる2匹の姿があった。 全身は真っ赤に火照り、あたり一面に2匹が出した夥しい粘液が広がっている。 だが、2匹はさらに激しく体をこすり合わせ、舌を絡めあってお互いを絶頂へと導こうとしている。 「んぶぶぶぶぶぶ、まりざ、あがぢゃんまだ!? ありず、ありず、んほぉ、もうイグ、ありすいっぢゃうよほぉぉぉぉぉ!!!!!」 「まっで、ありず、まだだめだよ、まだ、もうずごじでまりざもイグがらね、まだイッぢゃらめぇぇぇぇぇぇ!!!!」 だんだんとろれつも回らなくなり、表情も白目を向いたどう見ても危険な領域に突入したものになっている。 しかし、2匹はその行為を決して止めようとはしない。 今この時でないとダメなのだ。 「んぐぐぐぐぐぎぎぎぎぎぎぎいいいいいいい!!!!」 ありすが割れてしまいそうなほど歯を食いしばり、絶頂しそうなのを必死に耐えている。 その口から漏れるのも言葉では無く呻き声に近い。 ありすは、まりさより先にはイケない理由があったのだ。 「まっででねありず、まりざもうイグよ! らめ、イグ、イグイグイグううううううううう!!!!!」 まりさもありすの頑張りに応えようとさらに激しく体を震わせ、それの意味する所を理解したありすがまりさを絶頂へと導くためにさらに体を震わせる。 「んぐぐぐぐぐぐあああああああまりざもうだめありずもうダメありずもううぐぐぐんぎいいいああああああああ!!!!!!!!!!」 「あああああありず、ありずありずありずありずありずありずありずむううううんおほおおおおおおおーーーーーーっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!」 一際長い絶頂の声を上げた後、まりさが口から大量の餡子を吐き出した。 いや、違う。 餡子ではない、それは小豆色をした小豆そのものの、だが小豆に似た何かだ。 まりさはまだ大量の「それ」を吐き出し続けている。 「んぼ、ごぼぼぼぼぼぼぼおっげぇっげぼっごっごごげぼぼぼぼぼぼぼぼぼ!!!!!!」 嘔吐が続くため呼吸ができずにむせ返るが、それでもまだ止め処無く「それ」は後からあふれ出てくる。 数十秒ほども続いて、ようやく「それ」の放出は止まった。 精も根も尽き果てたまりさは、「すっきりー!」の声も無く、必死で酸素を求めてぜぇぜぇと荒い息をつくばかりだ。 そして、放出が止まったのを見て、ようやくありすが本会を遂げる時が来た。 「まりざ、ありずの、ありずのおもいをうげどっでねえええええええええええーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!」 そして、まりさが吐き出した「それ」に向けて口から大量のカスタードクリームを放出する。 いや、これもカスタードクリームではない。 カスタードよりももっと白く、粘液質の「何か」だ。 ありすもまりさと同じ様にむせ、えづきながら「それ」全てにかかるように大量の「何か」を吐き出し続けていく。 こちらも長々と時間をかけて吐き出し終わると、酸素を求めて喘ぐような呼吸を続けた。 それから2匹ともがようやく呼吸を整えた頃。 先程までの嬌態の残渣はもうどこにも無い。 あるのは、半分ほどに縮んだ2匹のゆっくりと、その2匹と洞窟の壁との間に挟まれる様にして広がった何かがあるだけだ。 「ん……ありす……ちゃんとまりさたちのあかちゃん、のこせたね……」 「そうね……みんな、ちゃんとうまれてくれたらいいね……」 そう、あれは他でもないゆっくりの卵なのだ。 この苛酷な環境で生きるゆっくりは、冬の間常に食料があるとも限らない状況に適応して、卵生へと変わったのだ。 食事を取る事も無く冬を過ごせ、生れ落ちた時には外はもっとも快適な春である。 こういった洞窟の奥でなら、卵もかろうじて寒さには耐えられる。 それくらいの際どいバランスの中で、ゆっくり達は生き抜き、世代交代を繰り返してきたのだ。 しかし、せっかく自分達の卵が生まれたと言うのに親達は元気が無い。 「すっきりー!」も「しあわせー♪」のひとつも無く、再び静かに身を寄せ合っているだけだ。 「まりさ……」 「なぁに、ありす……?」 「わたし、まりさとあえてよかったよ…………」 「うん……わたしもありすとあえてしあわせー…………」 2匹の脳裏には、2匹が生まれ、出会い、そして生きてきた思い出が止め処無く溢れかえっていた。 そのどれもが、決して忘れることの無い輝く宝物だ。 「ありす……ありす……?」 まりさは、ありすまだ伝えたい事があったのでありすに呼びかけた。 だが、ありすからの返事は無い。 わずかに体を動かしてありすの横顔を見る。 先程までとは違い、ありす本来の綺麗で整った横顔だ。 ありすは、僅かな微笑を浮かべて自分達が生んだ卵を見つめている。 だが、その体からは呼吸の振動が伝わってこなかった。 それは、鮭や昆虫などと同じ現象。 生んだ後に、親たちはほぼ間違い無く死んでしまうのだ。 「そっか……ありす、さきに、ゆっくりしちゃったんだね」 おつかれさま。 その意味を込めてもう一度頬擦りし、口付けをする。 体を横に向けて、少し伸び上がる。 それだけの動作が、もう酷く億劫だった。 そして、もう一度自分達が生んだ子供達を見る。 少しでも多く生まれて、少しでも大きくなって、少しでもたくさん幸せになれますように。 それだけの事を思い浮かべるのにとても時間がかかった。 寒い。 隣のありすの体温ももうほとんど感じられない。 そしてとても眠い。 ああ、自分も時間だ。 「ありす……だいすきだよ……」 だめだ、もう眠ってしまう。 「ありす…………ずっと、いっしょに、ゆっくりしようね…………」 最期に直接伝えられなかった想いを振り絞るように言葉にして、まりさの意識は静かにとても、とても深い所へゆっくりと沈んでいった。 終わり 作・話の長い人 あとがき たまにはこうやってゆっくり同士で大自然を生き抜いて、天寿を全うするゆっくりもいいじゃない。 細かい突っ込みは無しで。 わかっててあえて書いてない所もあるし。 過酷な環境でも、2匹で過ごした時間はしあわせそのものだったはず。ゆっくりやすんでね -- 名無しさん (2008-07-26 00 44 58) これからもずっと2人でゆっくりしてね。。。。。 -- 名無しさん (2008-08-30 17 34 23) きっと元気な子が生まれるよ!!だいじょうぶだよ!! -- ゆっけの人 (2008-10-26 02 25 29) なんか、とても切なくて泣けてくる・・・ -- 名無しさん (2008-10-26 02 48 38) ・゚・(ノД`)・゚・。 目が…目があぁぁ(ry 稀でもゆっくりに泣かされた経験があるのは私だけでは無い筈。。。 -- 名無しさん (2008-12-09 02 59 22) けど卵生ってことは生き延びる赤ゆの数も少ないわけだよな・・・自然だから仕方ないけど -- 三下 (2009-04-01 16 26 45) 何故? -- 名無しさん (2009-04-28 01 00 22) おにいさんもビックリの生態だね -- おにいさん (2011-04-16 09 58 13) この人ってアッチの人だったの? -- 名無しさん (2012-04-16 20 38 42) 名前 コメント
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一人暮らしなのに、家に帰ると出迎えがあった。 「ゆっくりしていってね!!」 「ここはれいむのおうちだよ!!おじさんもゆっくりしてね!」 やれやれ、またか。最近多いな。 相手にしているときりがないので、無視して先ほどコンビニで買ってきた「ゆっくり専用ごみ袋」を取り出す。少々大きめで、丈夫な素材でできている代物だ。 反応がないことに不満で、足元にぽよぽよぶつかるゆっくり2匹をつかむと、ゴミ袋に入れる。「ゆっくりだしてね!!」などとほざいているが、例によって取り合わない。 中にはいるとお母さんれいむとその子ども達が数体好き勝手に遊びまわっていた。 「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」 まったく。 「おじさん!!たべものがここにはないよ!ゆっくりできないよ!」 「おもちゃもないよ!!つまらないよ!!」 「ゆっくりたちにごはんとおもちゃをあげてね!!」 「「「あげてね!!」」」 ゆっくりが大量に増え住居侵入被害にあうことも珍しくなくなったため、一般家庭でもゆっくり対策を講じることが珍しくなくなった。我が家もその一環として食料庫や貴重品をしまう箱にはカギをかけているため大した被害はなかったのだが、ゆっくりたちにはそれが不満だったらしい。 そんなにつまらないなら諦めて出て行って欲しいのだが、この時期天敵の雨を凌げる場所はやはり欲しいらしく 「でもここはあめがこないから、れいむたちのおうちにするね!!」 「ここでみんなゆっくりしようね!!」 「「「「ゆっくりしようね!!」」」」 まぁ、これもいつものことなのでスルー。ずうずうしく「ごはんまだ?」ところをあっさりと捕まえると、ゴミ袋にポイポイ入れていく。ゆっくりたちは袋の中で「ゆっくりはなしてね!!」「ゆっくりできないよ!」とうるさいが、こいつらに事情説明しても事態は好転しないのはよーくわかっている。ひととおり入れたところで袋の口を縛り、袋にはまだまだ余裕があったがゴミ回収場に向かう。、 階下の回収場にはいつの日からか「もえるゴミ」「もえないゴミ」「資源ゴミ」のほかに「ゆっくり」のカテゴリーが追加されており、既に何個か専用袋が鎮座している。ご近所も災難だな。 袋の中からはまだゆーゆーうるさい声が聞こえる。このままでは近所迷惑になるので、早いところ静かにしてもらおう。袋をその場で回転させ、勢いをつけたところで道路に叩きつける。 どすんっ。 「「「「ゆ゛ーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!?」」」」 「や゛め゛てぇえええええええっ」 「ゆ゛っぐりでぎな゛いいいッ」 構わず何度も打ちつける。 どすんっ。 どすんっ。 どすんっ。 このようにして、餡子ペーストになるまでゆっくりどもをまとめて潰すのだ。なんでも、このために袋は丈夫に作られているのだとかそうでもないとか。 しかし餡子って意外と重いな。ちょっと腕が疲れてきたので腕を休めていると、中からの声は随分小さくなっていた。結構な数がただの餡子に成り果てたらしい。 「な゛んでごんな゛ごとにぃいいっ」 「ゆっぐりしだいよぅ・・・・」 なんでってまぁ、人様の家に勝手に上がりこんで自分の家宣言じゃなぁ。境遇を考えればちょっとかわいそうだが、もうちょっと愛嬌の振りまき方と遠慮を学んでくれ。 せめて楽に死なせてやるのがやさしさか。ということでトドメ。 どすんっ。 沈黙した餡子袋を回収場に置いて部屋に戻る。ストレス解消にならないでもないが、こうちょくちょくやらされるのも難儀だな。 ため息をつきながら、とりあえず座布団に腰を下ろすと 「ゆ゛っ」 ・・・尻にくぐもった音と何かがつぶれる感触。見てみると、小さなゆっくりの成れの果てがあった。どうも1体ほど隠れていたのを見落としていたらしい。おかげで床にあんこが汚れてしまった。また面倒が増えた。 一人暮らしの寂しい身、ちいさいの1体ぐらいなら飼ってやらないこともないんだけどな。惜しいことをしたかな、と思いつつ、不幸なゆっくりの死体を始末した。 ゆっくりが現れてからというもの、小さな面倒が増えたものだ。 おわり
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12月20日☆ かなた「いってらっしゃい、男くん」 男「……」 かなた「あれ? どうしたんですか?」 男「お前さぁ……」 男「いってらっしゃいにゃん、ご主人様!」 男「……ってやってるんだってな?」 かなた「……」 男「……」 かなた「ど、どどどどどどうしてそれをっ!」 男「ふ……。どうしてだろうな?」 かなた「まままままままままさか前回の私がそんなことを!?」 男「さぁて、学校行くかなぁ」 かなた「うっ……うぅっ……。も、もう生きていけないです……」 男「生きてないくせに」 男「あ。そういえば煙草切らしてたんだった。そういや前も今日だったなぁ」 前回同様、逆さまの自販機に向かう。 この二日ラッキースターを吸い続けた結果、俺はついにその独特な味に惚れてしまったのだ。 男「もうこれ以外の煙草なんて考えられないぜ!」 上にある受け取り口から、箱を取り出しながら言う。 男「パチモンなんて言ってすまなかったなマイベストフレンド!」 端から見たら怪しい人かもしれないが、生憎俺しかいない。 そう思っていると リボンの女「くすん……くすん……なんでこんなことにぃ……」 と背後をリボンをつけた女が歩いていった。 俺は恥ずかしさを誤魔化すようにうつむいた。 そこで気付く。 男「あれ……?」 今の奴、どっかで見たことあるぞ? 男「……」 顔をあげてみたが、もう彼女はいなかった。 学校に到着した。 男「そういや、校門でこなたと会うんだっけ」 俺は校門の周辺を見回した。 男「……ん?」 校門近くの電柱から、アホ毛が生えている。 ……電柱からアホ毛? よく見てみると、電柱の陰に誰かいる。 男「……こなた?」 こなたは電柱の陰からちらちらこちらの様子を窺っていた。 気付かれていないつもりだろうか。 男「あ、そうか」 俺は理解した。 前回の俺は、ここでこなたと出合ったのは偶然だと思ったが、実はあいつが待構えていたのか。 男「……俺、気付かなかったんじゃねーか。あんなにわかりやすいのに……」 自分に失望しながら、俺はこなたに近付いていった。 男「……」 電柱の真近くに立つと、俺は揺れるアホを掴んだ。 (=ω=.;)「あいったたたたたたたたたっ!」 男「フィッシュ!」 (=ω=.;)「ふぃ、フィッシュじゃな――いたたたっ! わ、私の萌え要素を離すんだっ!」 男「何が萌え要素だ。待ち構えやがって」 (=ω=.#)「ふぅ……痛かったなぁもう。ここだけハゲたら、私は男を絶対に許さない」 男「で、なんで隠れて待ってたんだよ?」 (=ω=.)「……」 男「……」 (=ω=.*)「愛だよ」 男「貴様の愛は狂ってるな」 (=ω=.;)「ひ、ひどっ! この純情がわからぬか」 男「……わからん!」 (=ω=.;)「……」 男「……」 (=ω=.)「まぁそんなストーカーちっくな話より、もっと楽しい話があるじゃん!」 男「なんだ?」 (=ω=.)「昨日も話したけど」 (=ω=.*)「今日から冬休みだーっ!」 男「わーわー」 (=ω=.*)「学校終了祝いに、今日はぱーっとカラオケでも行こうよ!」 男「よーし、行くかぁ!」 (=ω=.*)「おー!」 男「いやあ。いっぱい歌ったなぁー」 (=ω=. )「そうだね……」 男「もうこんな時間だもんな。カラオケは本当に楽しいな」 (=ω=. )「そうだね……」 男「……なんかお前、ふらふらしてないか? 歌い過ぎたんだろ?」 (=ω=. )「そうだね……」 男「まつたく、ハメ外し過ぎだって。俺のように節度を持てよ」 (=ω=. )「あれで……節度を持ってたんだ……」 男「まだまだ歌えるぞ?」 (=ω=. )「それだけは許して下さい。本当に許して下さい」 男「はぁ?」 そんな他愛ない話をしながら二人で歩いていると (=ω=.)「……お?」 目の前の路上に、何枚も花びらが落ちていた。 男「これ桜の花びらか?」 (=ω=.)「だねぇ」 しかし周りに桜の樹などない。 男「変なこともあるもんだ」 (=ω=.)「あっ」 男「ん?」 (=ω=.*)「ここ! ここだよ!」 男「ここ?」 (=ω=.*)「ここで私達は出会ったんだよね!」 男「あー……そうだったな」 (=ω=.*)「花びらの辺りに、猫が捨てられてて」 男「そう。猫が……」 ……猫? (=ω=.*)「男が拾ってたんだよね。いやぁ、懐かしいなぁ」 男「ちょっと待て、こなた」 (=ω=.)「む?」 男「俺が拾ったのは、狐だぞ?」 (=ω=.;)「き、狐……?」 男「そうだ」 (=ω=.;)「どう見ても猫だったじゃん」 男「いや、狐だって! 猫に似てるけど、狐なんだよ!」 (=ω=.#)「えー。そんなはずないってばー。確かに見たもん」 男「何を見てたんだよ!」 (=ω=.#)「からかってるね? じゃあ見せてよ、その狐」 男「は?」 (=ω=.#)「まだ飼ってるんでしょ?」 男「おう。当たり前……」 言いかけて、気が付いた。 男「……」 俺の家からあいつがいなくなっていたことに。 俺は家に飛び帰った。 男「かかかかかかか、か、かなたああぁぁぁっ!」 かなた「わっ! な、なんですか? どうしたんですか?」 男「き、狐っ! ききききき狐っ! 狐はいるかああぁっ!?」 かなた「き、狐さん?」 男「そうだ! 可愛い子狐だ! 俺が飼ってる貧乳史上主義の狐だっ! し、しし知ってるだろ!?」 かなた「い、いいえ……」 男「嘘をつくなーっ! ずっと家にいるはずなんだ! ニート幽霊の貴様が知らないはずがないだろ!?」 かなた「嘘じゃないですよぉ」 男「まだ嘘ぶくか! さささささては貴様が隠してやがるんだな!? 塩(シ)ッ! 塩(シ)ッ!」 かなた「あいたーっ! もう! 知らないっていってるでしょう!?」 男「嘘だァッッッッッ!」 かなた「嘘じゃないです!」 男「し、信じるもんか!」 かなた「最初からいませんよ! 狐さんなんか見たこともありません!」 男「う、うぞ……」 かなた「本当です。この家のことなら、私が一番よーく知っています」 男「あ、あわ……」 かなた「……」 男「探さなきゃ……!」 かなた「え……」 男「お、おおお俺! 探してくる!」 かなた「あ! ま、待って――」 男「うわあああああああああああ!」 かなた「あ。しまった。止めるつもりが通り抜けちゃった……」 男「ひくひく……」 かなた「だからですね。こんな夜に探しても見つけるのは難しいと思います……ひりひり」 男「……でも、こんな寒空の下で……」 かなた「アテはあるんですか?」 男「にゃい……」 かなた「……それならなおさら、探すのは明日にしませんか?」 男「……」 かなた「今回の24日にも貴方に何かが起こるのなら、徹夜なんかして時間を無駄にしちゃ駄目です」 男「……」 かなた「……私も狐さんのことは可哀相だと思ってるんですよ?」 男「……わかってるさ。お前が正しい。薄情者だ、なんて思ってない」 かなた「男くん……」 男「それと」 かなた「はい?」 男「狐ちゃんって呼んでやってくれ……」 かなた「な、なんでですか?」 男「……前回のお前は、そう呼んでたんだよ」 かなた「……」 男「かなり仲良かったぞ。一緒に飯を食べたり……」 かなた「……」 男「お前のために、飼い主である俺に噛み付いたり……」 かなた「今すぐ探しに行くべきです」 男「……!?」 かなた「何してるんですか! そんな素晴らしい狐さん……ううん! 狐ちゃんを放置しちゃだめです!」 男「い、言ってることが違っ!」 かなた「ええい! もういいです! 私が行きます!」 かなたは鼻息粗く部屋の壁を擦り抜けようとして かなた「うあっ」 べしっと跳ね返された。 男「……出れないって、本当だったんだな」 かなた「きゅう……」 12月21日☆ (=ω=.;)「き、狐探し?」 男「ごくごく……ぷはっ。そう、狐だ」 俺はこなたに貰ったジュースを飲みながら言った。 男「猫じゃないからな」 (=ω=.;)「むー。記念すべき初デートがフォックスハンター……」 男「何が初デートだ。どうせ今日も、これがなければゲーセンアニメイトコースだろうに」 (=ω=.*)「ま、それもそうだね。それに比べたら狐狩りの方がお洒落かな? 貴族のスポーツっぽくてさ」 男「狩ってどうするんだ貴様はっ! 優しく保護しろっ! 丁重に扱えっ!」 (=ω=.;)「冗談だって。というか、これから探すのって昨日話してた猫だよね?」 男「昨日話してた狐だな」 (=ω=.)「わかったぁ、わかったぁ」 男「本当にわかっているのか!? 俺の狐の一大事なんだぞ! 真面目にやれよ!?」 (=ω=.;)「もう、探すならどっちでもいいじゃん。猫でも猫でも」 男「なんで猫しか選択肢がないんだ! 狐だっての! 切なくなるほど可愛い子狐だ!」 (=ω=.;)「はいはい。狐でも、ね。……男ってさ、相当あの猫を溺愛してるね。ちょっと嫉妬していい?」 男「猫じゃないが却下だ。そんなことしてる暇はない。さぁ、これを……」 (=ω=.)「……何これ」 男「見て分からないか? 俺のパンツだ」 (=ω=.;)「なんでパンツ」 男「あいつは、これを枕にして寝るのが好きだったんだ……」 (=ω=.#)「てりゃっ!」 男「お、おまっ! 何故投げ捨てるーっ!?」 (=ω=.)「そんな猫は、嫌だ」 俺達は狐――こなた的には猫――を探し回った。 あるときは住宅街を。 (=ω=.)「ねっこちゃーん?」 男「狐ぇーっ! うおおおおお!」 (=ω=.;)「男……さすがにマンホールを開けても出てこないと思うよ」 またあるときは商店街を。 (=ω=.*)「にゃーにゃー」 男「こんこんっ!」 (=ω=.;)「ねぇ男。猫でも狐でもいいから、名前付けないの?」 男「俺にはそんな生き物への冒涜は出来ない……」 (=ω=.;)「じゃあ私達に名前が付いているのをどう思う?」 男「うるせーっ! それに俺には名前など――」 (=ω=.#)「わーっ! わーっ!」 またまたあるときは学校の中を。 (=ω=.)「こそこそ(ねこちゃーん?)」 男「こそこそ(どこへ行ったんだああああああぁぁぁぁぁっ!)」 (=ω=.)「こそこそ(それをこそこそで表せるのが凄い)」 またまたまたあるときはアニメイトを。 男「え!? アニメイト!?」 (=ω=.*)「にゃー!」 そうして探し回っていると、ついに日が傾き始めた。 俺達は公園のベンチに座って、少し休憩することにした。 (=ω=.;)「見つからないねー」 男「……ううっ。どこに行ってしまったんだ……。あんなに一緒だぁったのにぃ……」 (=ω=.*)「言葉一つ通らないぃー」 男「アホ! 言葉はわからずとも以心伝心してたわ!」 (=ω=.;)「……ジョークすらも通らないぃー……」 男「きゅ、休憩してる場合じゃない!」 (=ω=.;)「えー。ちょっとだけ休憩させてよ……」 男「わかった」 (=ω=.*)「……」 男「で、でもやっぱり探さないと!」 (=ω=.;)「……」 男「そ、そうだな。休憩だ休憩だ……」 震える手で煙草を咥え、火を点ける。 男「ふぅ。……落ち着いた」 (=ω=.;)「煙草、逆だけどね」 男「……」 (=ω=.;)「……」 男「あぁぁぁ……あいつがいなかったら俺はぁぁぁ……」 俺は手に顔を埋め、うなだれた。 (=ω=.)「あ!」 男「なんだ! み、見つけたのののか!」 (=ω=.#)「くそぅ。今日はネトゲでイベントがあったんだ。忘れてた」 男「……」 俺はより一層深い悲しみに包まれた。 (=ω=.)「あ!」 男「どうしたんだ! 今度こそいたのか!?」 (=ω=.*)「閃いた! 張り紙をして、誰かが見つけてくれるのを祈ろうよ!」 男(……俺は24日に死ぬ予定……)」 俺の精神は絶望の深海へ墜ちていった。 (=ω=.)「あ!」 男「……」 (=ω=.*)「いたああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!」 男「はいはい……」 (=ω=.#)「本当だよ! あそこ見て!」 男「うん、いるね……」 (=ω=.#)「見てないじゃん! ほらぁぁぁ……」 男「いててっ! や、やめろ! 首の骨が折れ――」 ……あ。 目をあげて、こなたが指差す方を見ると 猫「……」 そこには猫がいた。 (=ω=.*)「ほらねー。いたでしょ!」 男「……あれは違う」 (=ω=.#)「目、悪いの?」 男「悪くない。でも絶対あれは違う。あれは……」 (=ω=.#)「もー! 違わないってば! 私が連れてきたげる」 男「ま、待て!」 こなたは俺の制止も聞かずに猫の方に走り出した。 男「そいつは――!」 猫を捕らえるこなた。 (=ω=.*)「捕まえ――」 猫「何すんじゃワレェェェーっ!」 (=ω=.)「た」 俺はその様子を見ながら、こなたに伝えたかった言葉を、小さく呟いた。 男「……喋るんだ……」 (=ω=.;)「おっ男の猫が喋ったああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」 猫「あぁん? 誰が猫よ誰が」 (=ω=.;)「あんただよ!」 猫「あーはいはい。そういえばそうだったわね」 男「だから言っただろ」 俺もこなたに続いて、猫に近付いた。 男「こいつは俺の飼い猫なんかじゃねーの」 (=ω=.)「で、でも確かにこの子だよ! 私が言うんだから間違いない」 猫「はっ。誰がそんな冴えない男に飼われるかっての。スーパーアイドルはみんなのものなんだよ? きゃはっ」 男「猫を被るな猫を」 猫「んだこらぁ!?」 (=ω=.;)「……というか、男。ヤケに冷静だね。自分の猫が喋ったっていうのに」 男「まぁな。というか俺の猫じゃねーって! 俺が探してるのは、狐!」 (=ω=.#)「この猫だよ!」 男「狐だ!」 猫「あーはいはい、痴話喧嘩はその辺にしてくれない? 猫も食わないって言うでしょ」男「犬だろ……」 その後、猫は俺から煙草を一本ひったくり、俺達が座っていたベンチに腰を落ち着けた。 俺達も同じく座る。 猫「ぶはっ! げほぉっ! げほぉっ! ま、マズっ! ちょっと何よこの煙草!」 男「ラッキースター」 猫「どこの糞煙草よ! マズすぎるってーのっ!」 男「逆さまの自販機に売ってるぞ。欲しけりゃ買いに行け。たまにハズレもあるが」 猫「いらねーよ!」 男「ハズレを引くのが怖いのか」 猫「あんた馬鹿ぁ? ハズレなんかあったとしても、スーパーアイドルなあたしが引くはずないでしょ」 男「……」 (=ω=.;)「……」 (=ω=.)「ねぇ、猫」 猫「猫様」 (=ω=.;)「ね、猫様。ちょっと聞いていい?」 猫「何よ。ギャラなんか聞いたら覚悟しろよ小娘」 (=ω=.)「本当に男の飼い猫じゃないの?」 猫「違うってーのに。あんたもしつこいわねぇ」 男「そうだぞこなた。俺のペットは煙草なんか吸わない」 猫「ふ。陰で何してるかなんてわかんないもんよ?」 男「す、吸わないもんっ!」 (=ω=.;)「まぁまぁ。……猫様。じゃあもう一つ」 猫「あん?」 (=ω=.)「なんで喋れるの?」 猫「そりゃあたしが人間だからに決まってるじゃない」 男「……人間? どう見ても猫だが」 猫「チッ。あたしだって好きでこんな姿になったわけじゃないわよ。仕事でもないのに」 猫はそう言いつつ煙を吸い込んだ。 ラッキースター特有の甘い香りが広がる。 男「(前もそんなこと言ってたな……)ということはなんだ? 猫の姿に変えられた、とでも言うのか?」 猫「まぁね。誰の呪いかしらないけど、三日くらい前に起きたらこんな姿だったのよ」 男「……3日前?」 3日前といえば…… 男「18日か?」 猫「昨日、一昨日……あぁ、そうね。18日よ」 男「……」 俺は今まで、24日に起こる異変ばかり考えていた。 だから疑問に思わなかった。 何故18日に戻ったんだ? ただの偶然なのか? 幽霊が現われる。 時間が戻って目覚める。 あんなに懐いていた狐がいなくなる。 人間が猫になる。 これらのことが一度に起こるのは、偶然で済むのか? 男「……」 腑に落ちない。 男「……」 (=ω=.)「男? どうしたの、難しい顔して」 男「……こなた。ちょっと俺、用事思い出しちまった」 (=ω=.;)「え。急にどうしたの? ペットはいいの?」 男「明日、また探す。ごめん! また明日な!」 (=ω=.;)「あっ! ちょっと! 男ーっ!」 猫「あー。これは女ね。本命の女よ。あんたは遊びだったってわけね」 (=ω=.#)「……」 猫「うがっ! ちょっ! 尻尾はやめ……にゃぁぁっ!」 男「ぜえ……ぜえ……た、ただいま……」 かなた「おかえりなさい、男くん。どうしたんですか? そんなに息を切らして」 男「……はぁはぁ……」 かなた「あ。狐ちゃんが見つかったとか!」 男「……いや、まだだ……」 かなた「……そうですか。一体どこへ行ったんでしょうね?」 男「……それより、話したいことがあるんだ……」 かなた「話したいこと?」 男「はぁはぁ……あ、あぁ」 かなた「と、とにかく落ち着いて下さい。」 かなたに促され、椅子に腰掛ける。 男「はぁ……はぁ……」 かなた「はい、お水どうぞ」 男「……サンキュ」 かなた「いえいえ」 男「ゴクゴク……」 かなた「私が飲んでた残りですが」 男「ブーッ!」 かなた「わあああっ。冷たいぃぃ」 男「げほげほ!」 かなた「なんですか、もうっ。失礼ですねっ」 男「生きてる人間がお供え物を飲むと、バチが当たるんだぞ!」 かなた「お供えされたんじゃなくて、私が自分でいれたんだからいいんです。そもそもお供えなんてしてくれないじゃないですか!」 男「そうですね……」 かなた「ぷんすか」 かなた「それで、話というのは?」 男「……」 かなた「……」 男「……さっき、喋る猫に会った」 かなた「……」 男「……」 かなた「からかってます?」 男「大まじめだ」 かなた「からかってますね? 現実的に考えてそんな猫はいないです」 男「幽霊が何を言う」 かなた「うっ。た、確かに……」 男「……その喋る猫には前回も会ってたんだがな。今回は色々と話を聞けたんだ」 かなた「ふんふん」 男「そしたら、自分は元人間だって言いやがった」 かなた「人間が猫に?」 男「あぁ。朝起きたらそうなってたらしい」 かなた「……」 男「18日の朝に、な」 かなた「18日……」 男「あぁ。お前が俺の家に来た、あの日だ」 かなた「あ……」 男「俺が目覚め、狐がいなくなったりもした」 かなた「……」 男「……なぁかなた」 かなた「は、はい?」 男「お前はどうして俺の前に現われることが出来た?」 かなた「……」 男「幽霊って、普通は見えないもんだろ?」 かなた「はい……。見えません……」 男「それが何故急に現われることが出来たんだよ? いつでもよかったんなら、18日じゃなくてもいいだろ」 かなた「……」 男「言いたいことはまだある。お前は、何故未来を知っているんだ?」 かなた「……」 男「おかしいだろ? この前、お前は時間を戻せないと言った」 かなた「……」 男「それなのに、何故未来に起こる死を知ってるんだ?」 かなた「……」 男「……」 かなた「……ごめんなさい。どっちもわからないんです」 男「……」 かなた「幽霊の私がここにいられる理由も、死を知っている理由も……」 男「……」 かなた「どうしてなのか、わからないんです……」 男「……」 かなた「……私は目覚めると、この家にいました」 男「……」 かなた「今までこなたを見守っていたはずなのに、気付くとここにいたんです」 男「……」 かなた「一つの強い思いを持ちながら」 男「強い思い?」 かなた「はい。こなたを死の運命から救いたい、と」 男「……」 かなた「あ。でも今は、あなたのことも救いたいと思ってますよ?」 男「……わかってるさ」 男「ともかく、24日だけじゃなく18日にも何かあるみたいだな」 かなた「そうですね」 男「わかってるだけでも……」 幽霊。 猫。 狐。 俺。 男「……わけがわからん」 かなた「男くんは二度も18日を経験したんですよね?」 男「ん? まぁ、そうだな」 かなた「何か変わったことはなかったんですか?」 男「変わったこと?」 かなた「あ。今回の時間逆行は別として」 男「んー……」 俺は前回の18日を思い出してみた。 珍しく夜中まで起きて煙草をふかしていて…… かなたが現われて…… 死の宣告されて…… こなたと付き合ってやってくれ、とかふざけたことを頼まれて…… しぶしぶ付き合って…… 男「むー。よく考えたら俺、よくあのときオーケーしたな」 かなた「何をですか?」 男「こなたと付き合うことだよ。俺、人と付き合うなんて絶対にごめんだったはずなのに」 かなた「そうなんですか?」 男「あぁ。お前は、今の俺しか見てないからな。前回の俺は人付き合いが嫌いだったんだ」 かなた「じゃあ、なんでそうしてくれたんですか?」 男「……何故かはわからないが、有り得ない選択をしちまったんだ。1000回頼まれてても絶対に断るはずなのに」 本当に有り得ない選択を。 今考えてもそんなことをするのは、異常だ。 かなた「ふふ。じゃあ1001回目ならいいんですか?」 男「そういう問題じゃ――」 待てよ? 1001回……? 18日に全ての異変が始まった。 24日に俺の日々は終わった。 男「……」 18日に目覚めた。 24日にまた終わる。 男「……」 18日にまた始まるのか? 24日にまた終わるのか? 男「……」 18日にまた始まる。 24日にまた終わる。 男「……」 今の俺には記憶がある。前回に経験した一週間の記憶が。 ……だが、もし仮に記憶がなかったら? 24日に記憶を無くし、また18日に目覚めたなら? 男「……」 またかなたがやってきて、ふざけた頼みをする。 記憶のない俺は、勿論断る。 男「……」 断っても日々は過ぎていき、また24日が来る。 18日が始まり、かなたが同じ頼みをする。 俺は断る。 男「……」 だがその繰り返しが、1001回目に達したなら? 男「……」 気まぐれにオーケーしてしまうかもしれない。 ――前回そうしたように。 男「まさか…………俺は………………」 有り得ない選択が出来るほど、繰り返していたのか? かなた「男くん?」 男「……」 かなた「どうしたんですか?」 男「……お前の言う通りだ」 かなた「はい?」 男「1000回頼まれても絶対に断るはずの頼み。それを受けるには、1001回目が必要なんだ」 かなた「やだなぁ。ただの冗談で――」 男「冗談なんかじゃない。俺の身に起きた時間逆行が、有り得ないはずの選択をしたことを説明出来るんだ」 かなた「え……」 男「俺は、何度もこの一週間を繰り返しているのかもしれない」 かなた「な、何を……!?」 男「18日に始まり、24日に終わり、18日にまた始まる一週間を、繰り返しているのかもしれない」 かなた「……」 男「だから有り得ない選択が出来た。前回がお前の言う1001回目だった、そう考えるとしっくりくるんだよ」 かなた「そ、そんな……」 男「……俺だって馬鹿げた考えだとわかってるさ」 かなた「……」 男「だがお前の頼みを聞くっていうのは、それほどふざけた出来事なんだ」 かなた「……」 男「……ま。所詮一つの推論だけどな」 かなた「……」 男「……」 かなた「……私も……そうだと思います」 男「かなた……?」 かなた「さっきも言いましたが、私は突然男くんの家にいました」 男「そう言ってたな」 かなた「それ以前の私の記憶は……何か、こう……大切な記憶に強引に消しゴムをかけられたような感じなんです」 男「……」 かなた「これは記憶が消えるという、証拠ではないでしょうか?」 男「……と、すると……」 かなた「……」 男「……繰り返しているのは、俺の時間じゃなく……」 かなた「……」 男「世界……なのか……?」 かなた「でも何故今回の男くんは、記憶があるんでしょうか?」 男「どうしてだろうな。世界ループ説からすると、記憶は消えるはずだが」 かなた「んー……」 男「むー……」 かなた「あ」 男「む?」 かなた「……私の頼みを叶えてくれたのが、理由でしょうか?」 男「お前の?」 かなた「今まで一度もしなくて前回したことは、おそらくそれなんでしょう?」 男「……あー……」 かなた「それなら、そうなりませんか?」 男「かもな。だがそんなことが何故俺の記憶をとどめておけたんだ?」 かなた「……い」 男「い?」 かなた「あっ。いえ! なんでもないです」 男「いいから言ってみろよ」 かなた「うぅ。やです。どうせ笑うでしょう?」 男「笑わない笑わない」 かなた「……じゃあ本当に笑っちゃ駄目ですよ?」 男「はいはい」 かなた「愛……」 男「エフッ」 かなた「あぁっ! やっぱり笑った!」 男「エフッ。エフッ。わ、笑ってないぞエフッ」 かなた「笑ってるじゃないですか! しかも変な笑い方!」 男「アハハハハハハハ」 かなた「普通の笑い方でも駄目です! もう男くんなんて知りません!」 男「あっ。どこへ行く。まだ話は終わってない」 かなた「もういいです! 夜も遅いしトイレ行って寝ましょう! べー!」 かなたはそう言うと、ドアの外に消えた。 男「……幽霊って、催すのか……?」 次へ
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※良いゆっくりが出てきます ※実験・観察中は基本解説はしてません ※ストレスでマッハになる可能性があります ※人間はあくまで状況を作り出すことしかしていません 益ゆっくりと害ゆっくり これは人間のものさしではあるが、ゆっくりのなかにも良いゆっくりと悪いゆっくりがいる事は知られている。 しかし良いゆっくりと悪いゆっくりの比率は明らかに悪いゆっくりの方が多い。 そのため多くの独善的なゆっくりにより良いゆっくりは駆逐されてしまうのである。 アリのような集団で行動する動物は基本、7割が真面目に働き3割がサボるという。 しかしこれもまたゆっくりには当てはまらない。全体としてみると真面目ではないゆっくりが多すぎるのだ。 そこで、だ。 人間にとって益なゆっくり、つまり良識あるゆっくり(以降益ゆっくりと称する)を集めて群にしたらどうなるか。 実験してみよう。 1ヶ月位掛かったのだろうか、やっと益ゆっくりを30匹集め終えた。 まずは聡明なドスを探さなければならなかったからだ。 また、そんなドスがいても益ゆっくりはドスの言葉を理解しないゆっくり(以降害ゆっくり)に殺されてしまいやすい。 ともあれやっと集まったのだ、今度こそ実験を開始しよう。 まず殆ど自然の状態だが外敵がいない状況を作り、だんだんと数を増やすやり方で益ゆっくりの群を形成。 次に我侭なゆっくり達に振り回されていた益ゆっくりタイプのドスを引き抜きこの群に送る。 対になる害ゆっくりの群は…そんじょそこらにいるためにあえて作ることもないだろう。 それでは観察してみよう。 「たべものをとりすぎるとむしさんもくささんもはえてこないよ!だからふゆをこせるぶんだけかくほするよ!」 「むきゅ、どすのいうとおりだわ」 「どすのさいはいにまかせるよ!がんばってとってくるね!」 「すっきりしすぎるとゆっくりできないよ!」 「わかったわ!みんなとすっきりしないようにするわね!」 「みょーん」 「あれはにんげんさんのはたけだよ!たねをうえておやさいをそだててるんだよ!」 「あそこにあるおやさいはたべちゃだめなんだね、わかるよー」 「にんげんさんのおてつだいをすればあそこのはっぱさんやむしさんをあつめられるかもしれないね!」 「むきゅ、それもかんがえたほうがいいわね」 本来自然ではありえなかったであろう光景。 ドスがリーダーシップを発揮し、そして全員がソレをサポートする。 どのゆっくりも1匹たりとも不平不満や我侭を言う事無く、群の活動をしていた。 さて、そんな群に1匹、害ゆっくりを入れてみよう。 害ゆっくりが群をかき乱すかどうか、観察だ。 「ゆっくりしていってね!」 「「「ゆっくりしていってね!」」」 「まりさをこのむれにいれてほしいんだぜ!」 「まりさはゆっくりできるゆっくり?」 「もちろんだぜ!」 「れいむはかわいいんだぜ、まりさとすっきりするんだぜ」 「すっきりなんてゆっくりできないことをしようとするまりさはゆっくりできないね!」 「そんなことはないぜ!すっきりはとってもゆっくりできるんだぜ!」 「みんな!このまりさはゆっくりできないよ!」 「どぼじでぞんなごどいうのぉぉぉぉ」 「こうなったられいむにすてきなおやさいをぷれぜんとしてはーとをげっとするんだぜ!」 「ゆ?まりさもおてつだいにきたの?」 「おてつだい?ばかなの?まりさはここのおやさいさんをわるいにんげんからうばいにきたんだぜ」 「にんげんさんがいっしょうけんめいそだてたやさいをかってにとっていくの?」 「まりさはげすだったんだね!」 「おやさいさんはかってにはえてくるんだよ!それをにんげんがひとりじめしてるんだよ!」 「まりさはなにもわかってないのね、ばかね」 「わたしたちはここのはたけのもちぬしさんにおねがいしておてつだいをさせてもらってるのよ」 「みんなだまされてるんだぜ!めをさますんだぜ!」 「このまりさはすくいがないわね」 「おなかがすいたんだぜ、ごはんをたくさんとってたべるんだぜ!」 「そこまでよ!」 「みょーん!」 「ぱちゅりーにみょん!?」 「むきゅ、むしさんもくささんもとりすぎちゃだめなのよ」 「どすのめいれいだみょーん」 「もうやだ!こんなむれからはとっととでていくぜ!」 「むれからでるにはどすのきょかがいるわ」 「わかったぜ!さっさとどすにいってこんなゆっくりできないむれからだしてもらうんだぜ!」 「どす!こんなゆっくりできないむれにはいられないんだぜ」 「むれにはいったそのひにむれをでる?まりさはゆっくりできないうえにこんじょうなしだったんだね」 「まりさはゆっくりできるぜ!ここのむれがゆっくりしてないんだぜ」 「このむれはみんなものわかりがいいんだよ、かってなことをしたいだけのゆっくりできないまりさはこっちからねがいだげだよ」 「もういい!どすはゆっくりしね!」 「「「「どすのわるぐちはゆるさないよ!!!」」」」 「なにをするんだぜ!はなすんだぜ!」 「これはせいさいだよ」 「むれをゆっくりさせないようにしたうえ、どすにてきいをもったゆっくりはゆるせないよ」 「みんなのことをかんがえるどすにしねだなんて、みのほどしらずだね」 「いんがおうほうだねー、わかるよー」 「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 案の定まりさフルボッコ。 今まで見てきたのとは逆の結果になった。 つまり、だ。 ゆっくりはその場の多数派に流れる傾向がある。 同じ数なら押しの強い害ゆっくりが攻勢になるが、これだけ数が揃うと益ゆっくりの勢力が強く主導権を握る。 まさに人から見てもゆっくりできる群であろう。 1対多なら多が有利。それがゆっくりの生態のようだ。 さて、こうなると同じ位の規模の益ゆっくりの群対害ゆっくりの群の勝負を見てみたくなる。 これの準備は簡単だ、近くの群の食料を台無しにすればいい。 人の手と言う事がばれないように、寝ている隙に崩落を装う。 勿論次の朝、群から五月蝿いほどの悲鳴が聞こえてくる。 「ふゆをこすごはんが・・・これじゃゆっくりできないよ」 「しかたないね、ちかくにむれがあるからたべものをわけてもらおうよ」 「れいむのかわいいあかちゃんたちをみればきっとごはんをだしてくれるよ!」 「まりさたちがゆっくりしたほうがちかくのむれもうれしいにきまってるんだぜ!」 害ゆっくり達の群でもドスはドスらしく振舞っているようだ。 空回りしている所が涙を誘う。 ドスは比較的益ゆっくりが多い為仕方ないのだが。 虐待お兄さんを愛でお兄さんにする位のドスもいるらしいが、大抵は害ゆっくりに愛想を尽かすものである。 このドスは何とか持ちこたえているようだが・・・ さぁご対面。 どうなる事だろう? 「ゆっくりしていってね!」 「「「「ゆっくりしていってね!」」」」 「ここのどすにあわせてね!」 「ゆ、どすとそのむれだね、どうしたの?」 「おねがいがあるよ!そうこがくずれてたべものがだめになっちゃったんだよ」 「すこしでいいからたべものをわけてね!」 「・・・ごめんね、ここはほかのむれがゆっくりできるほどのたべものはないよ」 「むきゅ、むれのみんなのぶんでいっぱいいっぱいなのよ」 「それじゃしかたないね・・・」 「まつんだぜどす!このどすはうそをついているんだぜ!」 「なにをいいだすの?まりさたちはうそをついてないよ」 「いーや、このむれはきっとたべものをひとりじめしてまりさたちにたべさせないつもりなんだぜ!」 「へんなことをいうんじゃないよまりs」「そーだそーだ!れいむたちにたべものをださないなんてゆっくりできないゆっくりだよ!」 「まりさまでそんなことをしんj」「こんにゃかわいいれーみゅたちにごはんくれにゃいなんてこきょのどすはばきゃだね!」 「そんなこといったらだめでs」「でぃなーもくれないむれなんてとってもいなかものじゃない」 「くろうしてるんだね、どす」 「もうどうしたらいいの、どす・・・」 「ごはんをくれない、ゆっくりしてないどすはゆっくりしね!」 「そのことば、せんせんふこくとうけとるよ」 「むきゅ、むこうのどすはたたかういしはないみたいだから、どすのかんがえにはんたいなゆっくりのふこくとみるわ」 「なにをごちゃごちゃいってるちーんぽ」 「このむれをうばえるとおもってるんだねー、わかるよー」 「うるさい!ゆっくりしね!」 群同士の争いが遂に始まった。 ここからはゆっくり同士の会話だけでは分かりにくいので解説を入れてみる。 「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」 害ゆっくり側はドスに対してしゃにむに突撃を行う。 「みんな、ここはどすはおさえるよ、ぱちゅりーとありすはほかのみんなをつれていどうするんだよ」 「むきゅ、わかったわ」 「とかいはにおまかせ!」 害ゆっくりの群の前にはドスが立ちふさがる。 そして大きく息を吸い込みその体を膨らませた。 「ここからさきはとおさないよ!」 その大きさと、体当たりにもびくともしない姿を見せつける。 「さっさとたおれるんだぜ!」 「あきらめてれいむのかわいいあかちゃんにごはんをたべさせるんだよ!」 「ゆっきゅりさせちぇね!」 大小様々な害ゆっくりがドスに体当たりを続ける。 「あとひといきだよ!」 「もうすこしでゆっくりぷれいすにつくね!」 ドスは全然こたえていないようだが、害ゆっくり達はもうすぐドスを倒せると思い込んでいるらしい。 もう1匹のドスといえば、申し訳なさそうな目でドスを見ていた。 「いまだよ!」 ドスが声を上げる。 「どすにこうげきするわるいゆっくりはゆっくりしね!」 「おうちやごはんをうばおうとするゆっくりできないまりさはいなくなってね!」 左右から洗われる益ゆっくり達。 どんどんと害ゆっくり達のスペースが狭くなっている。 「ふぅーーーー!!!」 害ゆっくりの逃げ場が殆どなくなったところでドスが吸い込んでいた息を大きく吐き出す。 「ゆわ!?」「ゆひゃ!?」 前方のゆっくりは後ろへ吹き飛ばされ、まりさやちぇんなどの帽子を被った害ゆっくりの帽子は飛ばされる。 「までぃざのおぼうじがぁぁぁぁ」 「ぼうしのないへんなゆっくりはゆっくりしね!」 「やめでぇぇぇぇ!!ゆっぐりじぬのばどずでじょぉぉぉぉ」 仲間割れ。 飾りのないゆっくりは相手を認識できない、というものであるが。 「ぼうしがなくなっただけでみぐるしいね!」 「かざりがないだけでゆっくりできないってだれがきめたの?」 益まりさが自分の帽子を益れいむにとってもらう。 「ゆっくりできな―」「なかまにぼうしがなくったってゆっくりできるまりさはまりさよ」 帽子を外したまりさに突撃してきた害れいむを突き飛ばす益ありす。 「ちゃんとあいてのとくちょうをおぼえればぼうしなんてただのかざりよ、そんなこともわからないの?えらいの?」 あれよあれよと害ゆっくりは同士討ちで数を減らす。 逃げ出そうとするものあらば益ゆっくりの囲みで押し戻される。 残ったのはとドスに従おうとした数匹のゆっくりだけである。 「わるいゆっくりにふりまわされてたんだね、どす」 「ありがとう!どすにはかんげきしたよ」 「おなじどすでしょ、しっかりしようね」 「どす!どすにいろいろとおしえてほしいよ!」 ドスがドスに教えを請う。 こんなレアなシーンを撮影できるとは思わなかった。 結局、この残ったドスとゆっくり達は益ゆっくりの群れに入る事になったようだ。 冬場までに2匹のドスの力もあり、何とか残った数匹過ごせる量の餌を集める事ができたらしい。 このまま群が増える事もあるかもしれない、れいぱーありすの集団が来た時の対応も気になる。 引き続き観察を続ける事にしよう。 …ただ、これは教授に提出するいい書けそうだ。 きっと「素敵!」の声が聞けることだろう、今から楽しみだ。 ――とある研究お兄さんの実験メモ ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー あとがき よくドスの言う事を聞いたばっかりに殺されるゆっくりがいたのでそれをかき集めてみました。 今まで書いたもの 博麗神社にて。 炎のゆっくり ゆっくりを育てたら。 ありす育ての名まりさ 長生きドスの群 メガゆっくり ゆっくり畑 このSSに感想を付ける
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ミックス☆ジュース リメイク版 第八話 私市 朔耶 「――――今作れるのは、僕か、朔耶か、玲か、彩さんになるんだけど。 誰か指名する人、いる?」 「さく、や・・・? もしかして、そこにいますの、さっちゃん?」 体を傾け、カウンターに立っている香の後ろをのぞき見る。 懐かしい響きに、ふっと振り返る朔耶。 頭で考えたと言うよりも、体が自然に反応したようだった。 次の瞬間、目が、合った。 「・・・・・・春歌ちゃん!?」 語尾が裏返っている。 「うそ、どうして? さっちゃんもリリアンでしたの?」 「まぁ、私らしくないと言えばらしくないですけど・・・(^^; いやー驚きました、何で今まで会わなかったんでしょうね?」 再会の雑談に花が咲きそうだったが、真ん中に位置する香が、それを止めた。 「ごめんね、朔耶、これってなにごと?」 「あ、いえ、この子、私の親戚なんですよ」 「ごきげんよう、白鳥春歌と申します」 香と改めて向き合うと、深々と一礼をする。 少々慌てていた香も、同じようにお辞儀をしてしまった。 今日はクラス単位では特に用事がなかったのか、彼女にとっての私服姿である和服で登場した珍客に、朔耶は顔に出す以上に驚いていた。 時を同じくして、もう一人。 「ごきげんよう、玲様」 「やぁ、春菜さん、来てくれたんだ」 「ええ、ちょっと、誘われたもので(^^)」 玲の元を訪れたのは、図書委員一の腕利き、中司春菜だ。 本人が、自分は怠け者だ、と言っているのをよく耳にする。 だが、それは本当にただの自称であり、体育祭実行委員も先陣を切って勤め上げるなど、その手腕に対する評価は思いのほかに大きい。 「じゃ、少し張り切ろうか。 リクエスト、何かあるかい?」 「そうですね、それでは――――」 ざこっ。 「あっ」 下駄を何かに引っ掛けて転びそうになる春歌。 人より少なめの平衡感覚を駆使して、なんとか姿勢を戻すと、自分の足元に目を向け、何に引っかかったのかを確かめる。 そこには、つま先を押さえて悶絶する少女が一人。 どうやら、彼女の足にぶつけてしまったらしいのを見て取って、あわてて謝罪をする春歌。 「あぁぁ、すみません、大丈夫ですか!?」 「~~~~~~っ、はいっ・・・」 目の端に涙を浮かべてなんとか返事をする春菜。 なんとか、痛みをこらえて顔をあげると、蹴った本人が泣きそうな顔で心配しているのが目に入った。 「いや、あの、ホントに大丈夫ですから・・・」 「いえ、でも・・・ ごめんなさい、不注意でしたわ」 懐からハンカチを取り出すと、そっと春菜の目元を拭った。 春菜の顔に見覚えがあったのか、春歌の動きが少し鈍る。 「あの、どこかでお会いしたこと、ありますよね?」 「えっと・・・もしかしたら図書室で?」 「あっ! そうですわ、中司春菜さん、でしたわね。 ・・・となると、一方的に私が存じ上げているだけですのね?」 「えっと、白鳥、春歌さま、ですよね?」 「はえっ?」 「よく利用してくれる人の顔は、覚えてしまうんです(^^; 図書館の利用カードを見れば、名前もわかってしまいますし」 「びっくりしました、超能力の持ち主かと・・・」 そんなこんなで、雑談が弾んでいく。 学園の日常のお話、文化祭の準備、今日の出し物のお話、図書室のお話ときて、薔薇の館のお話へやってきた。 「――――春歌さまは、ロサ・キネンシスをご存知?」 「ええ、そう深い間柄ではないですけれど。 でも、彼女よりあなたの方が働いている、と、一部で囁かれていますけれど、それって事実なんですの?」 「う~ん、それは体育祭の時の話でしょうか? 私はただの実行委員で、会議へは出ませんから、わかりませんわ。 芽衣子さんから聞いた話だと、用事がないと中々薔薇の館へ現れないと言うか・・・」 と、そこへ。 「あれ? 春菜ちゃんじゃない。 あなたも、ジュースを飲みに来たの?」 息を切らせたロサ・キネンシス―――二宮央が現れた。 噂をすれば影、と言うが、なんとも因果なものである。 しかし、なぜ息が切れているのだろう?と、春菜は感じた。 「央さん、ごきげんよう^^ 今日は楽しんでらして?」 にっこりと微笑んで、春歌から疑問が出た。 疑問は出たが、肩で息をする人間にする疑問が向かう先はそこなのか?と耳を疑いたくなる。 こういう場合、まず真っ先に聞くものがあると思うのだが・・・。 「春歌さまって、ほんとにマイペースですよね・・・ 央さま、その、何かから逃げてきたような状態は、なんですか?」 「決まってますわ、芽衣子さんと京さまよ。 あの二人を巻くのにどれだけ苦労したか・・・」 「おや、央さん、また来てくれたんですか^^」 マイペース人間、さらに一人追加。 朔耶が、手に4本のジュースを持って、やってきた。 と、先ほど央が二人から逃げ出した事実を思い出す。 つと眉根を寄せ、困ったような表情になると、一言つぶやいた。 「あ、しまったなぁ、ついさっき飲んじゃいましたよ」 他の3人は何を飲んだのか知らないので、意味がよくわからないでいる。 「猫に鰹節、朔耶にリンゴ、だな」 手に盆を、その上にカップを乗せて、玲がやってきた。 「お待たせしました、ポリネシアンダンサーになります」 「わぁ、ありがとうございます」 満面の笑みで、春菜はジュースを受け取った。 その隣で、春歌と朔耶が驚いている。 「えっ、同じもの?」 「は? なにがだ?」 胡乱げに聞き返す玲。 何がなにやら良くわからない央は、一歩下がって成り行きを見ている。 「私が注文したのも、同じものだったんです」 おずおずと、玲の質問に答える春歌。 と言うか、それを朔耶に注文したのなら・・・ 「あの、春歌さま、その本数は・・・?」 「え? 4つ・・・ですけど、それがどうかしましたか?」 何か、おかしいのだろうか? 彼女の顔には、疑いようもなくそう書いてある。 春歌の胃における性質を知っていた、親族(?)の朔耶以外は、一様に声を失った。 まぁ、確かに驚きますよねぇ、と朔耶は一人で勝手に納得していたのだが、あ、そうだとぽつりと漏らす。 「ねぇ春歌ちゃん、この内の一本、私がもらっていいですか?」 「え? さっちゃんも好きなんですの?ポリネシアンダンサー」 「いえ、嫌いではないですけど・・・。 はい、央さん」 「・・・はい?」 目の前ににゅいっと伸びてきた腕に、少なからず戸惑う央。 「おっかけっこして、疲れてますよね? 栄養補給に、持って行ってください」 「・・・お気遣い、痛み入ります」 ぺこ、と央は軽く頭を下げた。 少々察しの悪い春歌は、ここまできて、状況にやっと追いついた。 「あ、そう言うことでしたの。 でも、それってさっちゃんのオゴリですのよね?」 「え? ・・・えぇ、まぁ」 生返事で返すと、横から玲がしっかりと釘を刺す。 「朔耶、備品の着服は禁止だから、それはちゃんとわかってるよね?」 「わ、わかってますよ、もちろん」 「じゃ、さっきのりんごジュースのも含めて、し~~っかり働いてもらわないと」 「ふえ~ん・・・」 情けない声を残して、りんご大王はテントの奥へ消えていった。 取り残された三人は、顔を見合わせると、ぷっと吹き出し、そのまま楽しそうな笑いへ変わっていった。 「ふふふ、さっちゃん、お間抜けなのはいつまでも変わらないんですのね」 「剣の腕前ならリリアン4剣士でも最強だと言われながら、朔耶さまはあの性格ですからねぇ」 「やっぱり、私このジュース代、払ってきた方がいいと思うんですけど?」 央の提案に、春歌は首を横に振る。 「いーえ、ここは部員の方に絞って頂いたほうが、さっちゃんのためですわ」 そう言ってはいるが、その実ところどころに「ぷぷぷ」と笑いが混じっている。 ひとしきり笑った後、春菜が提案した。 「ところで、ジュースを飲みませんか?」 「そうですね、せっかく奢って頂いたのですし」 「では、いただきましょう^^」 『いただきまーす』 ぱくり、ちゅるちゅるちゅる~~~・・・。 「・・・は~、南国系フルーツのミックスジュースでしたか」 「そうですよ、央さまはご存じなかったんですか?」 「ええ、でもすっきりした甘さで、とても美味しいですわ」 「さっちゃん、意外と上手に作るんですのね」 「玲さまの作ってくださったジュースも、そこらのものより格段に美味しいです^^」 「さっき、私も玲さまに作っていただいたけど、あれも美味しかったわ・・・」 「そうですわ央さん、美味しいと言えば――」 女三人寄ればなんとやら。 その楽しげな雑談は、いつ終わるともなく続いていた。 あとがき これを書き始めた時点では、まだ央さんが逃げ切れるか、芽衣子さん&京さんに捕まるか、 決まっていなかったんですよね。 もしかしたら、捕まるエピソードを「if」として作るかもしれないですが、それはまた別のお話。 ポリネシアンダンサーと言うのは、春歌ちゃんからのリクエストだったんですけど、 どこをどう調べても作り方が出てこなくて苦労した覚えがあります(^^; 目次へ戻る
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その2より 「ほれ、今日からここがお前の部屋だ」 そう言って、男はれいむを木箱から取り出すと、乱暴に投げ捨てる。 虐待を終えた男は、れいむを密閉された木箱に詰めて、この部屋まで運んできた。 部屋は二畳半の小さな畳部屋だ。 憔悴しきったれいむは、まともに体を起こすことも出来ずに、床にうずくまったまま動けずにいた。 「今日の虐待はこれで終了だ。ゆっくり休むといい。ただし、今日は初日ということもあって手加減してやった。明日からは、もっと辛い目に逢ってもらう。精々気を強く持てよ」 全くもって虐待した男のセリフではないが、男は気にせず言葉をかける。 その後、れいむに背を向けドアに手をかけたところで、「そうそう忘れていた」と、首だけれいむの方に向きなおした。 「お前の絶叫が一番心地よかったよ。明日もその調子で頼むぜ!!」 またしても全くもって嬉しくない言葉をかけながら、男は笑いながら部屋を出ていった。 ドアを閉めて、カチャカチャと外から施錠する。 次第に足跡は遠ざかっていった。 れいむは男が去ると、力を振り絞って、ナメクジのように床を這い、部屋の隅に向かう。 そこにはドッグフードと水、ペラペラな毛布が置かれていた。れいむが死なないように、男が置いておいたものだ。 れいむはドッグフードに口を付ける。 安物のドッグフードであるが、普段ゆっくりが口にする虫や花とは比べることが出来ないほど美味であった。 しかし…… 「ゆっ……ゆげっ!! ゆがっ!!」 れいむはドッグフードを吐き出してしまう。 男の虐待で衰弱したれいむの体が、食べ物を受け付けないのだ。 それでもれいむは無理やりドッグフードを食べ続けた。 明日には今日以上の拷問が待っている。体を回復させるには、無理やりにでも食べなければならない。 ドッグフードを口に入れては、水を飲んで体内に流し込む行動を繰り返す。 れいむは泣いた。一体これで今日何度目だろう。 何で自分がこんな目に遭わなければならないのだ。今日何度そう考えただろう。 れいむは男がなぜこんなことをするのか分からなかった。 いくら呑気なれいむとは言え、今まで苛めや悪いゆっくりを見たことがないわけではない。 友達と喧嘩して苛められたこともあるし、苛めたこともある。 ゲスと言われる個体の暴力を目撃したこともある。 しかし、彼女たちにはそうする理由があった。 昔れいむは親れいむからリンゴを貰ったことがある。 ゆっくりにとって、リンゴなど滅多に食べられない嗜好品であった。 れいむはそれを友達と分け合ったが、我儘な子が多めに取ってしまい、大きさの違いからつい喧嘩になってしまった。 そしてその子は、ずるい・卑怯と罵られ、れいむを含む全員から苛められた。 その後、苛められたその子が均等に分けたことで、事態は収まった。 苛められたのは自業自得であり、苛めた方にも共感できる。 またある時、ゲスと言われる数体が群れを襲いに来た時があった。 何でも怠けていて冬場になっても食料を確保しておらず、どうしようもなく食料を奪いに来たらしい。 その時は、れいむの親のぱちゅりーの作戦が功を奏し、ゲスは一掃された。 怠けていたのは自分の責任であり、人の物を盗むなど腹立たしいことこの上ないが、これもある意味理解は出来る。 自業自得とは言え、食料がなければ冬は越せず、生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。向こうも必死だったのだろう。 取り分の多い子が苛められたのは、取り分を公平にするため。 ゲスが暴力を働いたのは、食料を確保するため。 群れがゲスを駆逐したのは、群れの食料を守るため。 このように苛めや暴力を見ないで育ってきたわけではない。 だがそれは、所謂手段であって、目的ではなかった。目的を果たすために、力で訴えたのだ。 れいむも、多くリンゴを取ったその子を、苛めたいと思って暴力を働いたわけではない。 それしか手がないからそうしたのだ。 しかし、男は違った。 特別な目的があって、れいむを苛めたわけではない。苛めそのものが手段であり、目的であった。 いや、強いて言うなら、ゆっくりを苛めることで感じられる満足感や充足感・カタルシスを得るためだろう。 可愛いから苛めたい、好きだからからかいたい。程度の差はあれど、人間誰しもが持つ普遍的な気持ちである。 しかし、ゆっくりにはこれがない。 可愛いから可愛がる、好きだから愛し合う。単純にして明快。ゆっくりにはこの考えしかない。 根底の価値観が、人間とゆっくりではそもそも違うのだ。 れいむには一生かかっても、男の考えが分かるはずがなかった。 れいむは、ドッグフードを無理やり体に詰め込むと、毛布にくるまった。 季節は秋。夜になれば、シンシンと冷たい空気が全身を襲う。 いくら薄っぺらいとは言え、人間の毛布はとても柔らかく温かい。全身をくるめば、正に天国のような心地よさだ。 しかし、それとは対照的に、れいむの心はとても寒かった。 何もしていないと、どうしても憂鬱な気分になってしまう。あの辛い虐待の時間を思い出してしまう。 もう早く寝てしまうに限る。 れいむは目を瞑り、意識が飛ぶまでいろいろなことを考え、あの辛い時間を忘れ去ろうとした。 今頃お母さん達はどうしているだろう? 元気かな? れいむのこと心配してるかな? 友達はみんな元気かな? いいお相手を見つけたかな? もしかして子供が出来たりした子もいるのかな? れいむも将来はまりさみたいなゆっくりと結婚したいな。 そういえば、まりさはどうしたのかな? ちゃんと生きてるんだよね? 一体どこにいるんだろう…… 「まりさ……」 ふとまりさの名前を呟くれいむ。 返事を期待したわけではない。そもそもこの部屋にはれいむ一匹しかおらず、返事が帰ってくるはずはない。 しかし、神様はたった辛く苦しいれいむに一つだけ加護を与える気になったのだろうか? 「……ゆっ? だれかまりさをよんだの?」 「!!!」 それは確かにまりさの声であった。 れいむはそれに気づくや、全身が痛いことも忘れて、毛布から飛び出した。 「ま、まりさなの? どこにいるの?」 大きな声でまりさに呼び掛ける。 しかし、東西南北どこを振り向いても、まりさの影も形も見当たらない。 「まりさ、かくれんぼしてないで、でてきてね!!」 「ゆぅ……そのこえはれいむだね!! どこにいるの?」 「ここだよ!! ゆっくりでてきてね!!」 「ここってどこなの? どこにもれいむはいないよ?」 「ここだってば!! わからないの?」 焦れたれいむは、まりさの声が聞こえる方に足を向ける。 しかし、そこにはだた部屋の壁がそびえ立っているだけであった。 こうなると、さすがにれいむも気が付いたのだろう。 その壁に向かって、言葉をかけてみる。 「もしかして、このかべのなかにいるの?」 「まりさはかべのなかにはいないよ!! おおきなおへやのなかにいるんだよ!!」 「ゆゆっ!! おおきなおへや?」 「そうだよ!! おへやだよ!!」 ようやくれいむは理解できた。 どうやら壁の向こうには大きな部屋があって、まりさはそこにいるらしい。 要するに壁伝いに会話を交わしていたということなのだろう。 「まりさ、ぶじだったんだね!! ゆっくりよかったよ!!」 れいむは壁に向かって、感情を爆発させた。 まりさがいる!! 例え姿が見えなくても、こうして壁越しに会話を交わせるだけで、不安に押しつぶされそうだった状況が、ガラリと一変した。 明日も今日のような虐待を受けることは変わっていないが、大好きなまりさを側に感じられるだけで、心の持ちようが変わるというものだ。 「れいむもぶじだったんだね!! ゆっくりあんしんしたよ!!」 「うん!!」 「でもありすはどうなったのかな?」 「ゆゆっ!?」 れいむは、ありすの名を出されるまで、すっかりありすの存在を忘れ去っていた。 薄情とは言うなかれ。まりさのことも、ついさっき思い出したばかりなのだ。 それだけ男の虐待が、れいむの餡子脳のウエイトを占めていたということである。 考えてみたら、自分の前にありすも虐待をされていたのだ。 元々ありす種に持っている感情や、さっきの泣いてばかりの姿を見たこともあって、未だあまりいい感情は持っていないが、それでも同じ虐待を受けた運命共同体である。 ほんの少し会った限りでは、れいむがありすに感じた感想は、行動力に乏しく、泣き虫といったものである。 れいむ自身も、さほど強くも勇敢でもないが、ありすに比べたらマシであろう。 少なくとも、男がまりさを虐待している最中、れいむは何とか部屋から出ようともがいていたが、ありすはひたすら泣いていただけであった。 このことから見ても、ありすがそれほど強いとは思えない。 そんなありすが、あの酷い虐待に耐えられたのであろうか? 心配である。 何のかんの言いつつ、ありすの心配をするあたり、結局のところ、れいむはお人よしなのであった。 「ありす、しんぱいだね……」 「ゆぅ……そうだね……」 二匹の間にしばし沈黙が流れる。 まりさも余程ありすのことが心配なのだろう。 自分も相当痛い目を見せられただろうにと、れいむは自分を差し置いて、まりさのやさしさに感心した。 と、そんなときであった。 カタッ 唐突に、れいむの背後から物音が聞こえてきた。 まりさが居る場所と真逆の方向である。 れいむは慌てて背後を振り返る。 この部屋にはれいむ以外誰もいなかったはずだが、今の音はいったい何だろう? キョロキョロと当たりを確認するも、思ったとおり、誰も存在しなかった。 「れいむ、いったいどうしたの?」 壁越しなのに、れいむの不審な行動が見えたのだろうか? まりさがれいむに問いかける。 「まりさ、いまおとがしなかった?」 「おと? ゆっくりきこえなかったよ?」 「ゆぅぅ……れいむのききまちがいかな?」 確かに何か音が聞こえたと思ったのだが、まりさには聞こえなかったらしい。 まりさの言葉に、れいむも聞き間違いかと思った瞬間、 ガタッ! さっきより一段と大きな音が、れいむの耳に入ってきた。 再び背後を振り向くも、やはり物陰一つ見当たらなかった。 不審に思うれいむでったが、今度は先ほどと状況が違った。 まりさから反応が返ってきたのである。 「ゆゆっ!! れいむ、まりさにもおとがきこえたよ!!」 「ゆっ!? やっぱり!!」 今の大きな音は、まりさの耳にもしっかり届いたらしい。 やはりさっきのはれいむの聞き間違いではなかったようだ。 「れいむ!! いまのおとはなんなの?」 「ゆー……わからないよ」 「もしかしておにいさんがまたきたのかな?」 「ゆっくりいやだよ!! もうきょうはいじめないっていってたよ!!」 「ゆっ、そうだったね!! それじゃあ、なんのおとだろう?」 「……ゆっくりれいむがしらべてみるよ!!」 音のした位置から見て、正反対の部屋にいるまりさには確認する術はない。 れいむは恐る恐るまりさのいる壁際から離れ、物音がしたほうに進んでいった。 「そろ〜りそろ〜り……」 キョロキョロ当たりを注意深く確認しながら、すり足でまりさと反対の方向に足を向ける。 しかし、狭い部屋の中にはやはり誰もいなく、すぐに対面の壁際に着いてしまう。 が、そこは、まりさの例もある。 もしかして、まりさ同様、この壁の向こうから音がしてきたのではないだろうか? そう考えたれいむは、壁に向かって声をかけてみた。 「そこにだれかいるの? いたら、ゆっくりへんじしてね!! ゆっくりおどろかすのはなしだよ!!」 れいむが言葉をかけると、その声に反応してか、再び物音が立った。 やはりそこに誰かるのは間違いなかった。 れいむの言葉に、しばらく返事は返ってこなかった。 それでもれいむは焦らず辛抱強く返事が返ってくるのを待っていた。 れいむ自身、恐怖があったので、あまり強く言えなかったこともある。 すると、ようやくれいむの言葉に返事が返ってきた。 「ゆぅぅ……そこにだれかいるの?」 それは余りに弱弱しい声であった。 しかしながら、れいむはその声に聞き覚えがあった。 「ゆゆっ!! もしかして、そこにいるのはありす!?」 「ゆっ!? このこえ、れいむなの!?」 それは数時間前に知り合い、すぐに別れることになってしまったありすの声その物であった。 向こうもどうやられいむの声だと気づいたのだろう。 弱弱しかった声が一変して、驚きを含む大声に変わった。 「ゆっ!? ありす? ありすのこえがきこえたよ!!」 「ゆゆゅ!! まりさなの? このこえは?」 まりさにも、今のれいむとありすの会話が聞こえたらしい。 どうやられいむの居る部屋を中心に、右側がまりさの部屋、左側がありすの部屋と、三つ連なっているようだ。 結界の外の世界とは違い壁に防音対策など施されているはずもなく、また二畳半というれいむの部屋の狭さから、まりさとありすが会話出来ても何ら不思議ではない。 「ほんとうにまりさとれいむなの!?」 「ゆっ!! ほんとうにれいむだよ!!」 「そうだよ!! まりさはここにいるよ!!」 「ゆゅ……ゆっ……ゆ、ゆあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!! まりさああああああぁぁぁぁぁ――――――!!! れいむうううぅぅぅぅ――――――――!!!!」 そこに二匹がいると知ったありすは、恥も外聞も関係なく、いきなり泣き出し始めた。 れいむは突然のありすの行動に驚き、「どうしたの!?」と聞きそうになって、ふと唇を結んだ。 そんなこと聞くまでもなく分かっている。 怖かったのだろう。 痛かったのだろう。 辛かったのだろう。 寂しかったのだろう。 すべて自分も体験したことだ。身を持って実感している。 ふと気付けば、れいむのありすに釣られて、目尻にも涙が溜まってくる。 まりさもそんなありすに何も言ってこない。 気持ちは痛いほど分かるのだろう。 もしかしたら、れいむのように釣られて泣きそうなのかもしれない。 数十分もの間、ありすは延々と泣き続けた。 その間、れりむとまりさは、一言も口を開かなかった。 「……みっともないところをみせたわね!! ちょっととかいはらしくなかったわね!!」 ありすは落ち着いたのか、ようやく泣き止んだ。 れいむも毛布で溜まった涙を拭き取る。 とにかくまりさに続いて、ありすが無事なことも確認できた。 恐怖はそうそう拭えないが、一匹でいるのと三匹でいるのでは、安心感が全然違うというものだ。 「そんなことないよ!! あんなひどいことされたら、ゆっくりしょうがないよ!!」 「そうだよ、まりさのいうとおりだよ!! れいむもいっぱいないたし、きにすることないよ!!」 「あ、ありがとう!! ま、まあ、とかいははせんさいだから、ちょっとくらいないてもしかたがないのよ!!」 こんな場合だというのに都会派を気取りたがるありすに、れいむは少しだけ呆れながらも、感心してしまう。 よくあんなに気を張っていて疲れないものだ。体力的にも相当キテいるだろうに。 まあ親ぱちゅりーの言っていたように、都会派どうこう言っても、こちらが気にしなければ別にどうということはないので、れいむとしてはどうでもいいことなのだが。 「ところで、れいむとありすはおにいさんにどんなことをされたの?」 まりさが質問してくる。 正直れいむは思い出したくもなかったが、明日も続くことだし、情報交換はしておいた方がいいと考えた。 うまく対策を立てられれば儲けものである。 「ゆぅぅ……れいむは、ほそいぼうをいっぱいあたまにさされたよ」 「ありすもれいむとおんなじよ」 今日男がれいむに加えた虐待は、虐待としては一般的でオーソドックスな針を使った虐待である。 裁縫針を一本一本頭に刺していくというただそれだけのことだが、侮るなかれ、その効果は絶大である。 ゆっくりは外面に対する衝撃には比較的強いが、内面に対する衝撃には呆れるほど弱い。 ゆっくりを知らない人はよく勘違いをするのだが、成体のゆっくりは饅頭というその体に反し、以外と頑丈に出来ている。 ゆっくりは成体になるにつれて、皮の厚さが増し、中の餡子やクリームが硬くなってくる。 そのためパサパサになって味が悪くなるのだが、それと引き換えに野外で活動するための頑丈な体が整ってくる。 人間の里のように整理された歩道などは、自然界にありはしない。 デコボコした山道を駆けたり、鋭い砂利の上を跳びはねたりするし、時には木や岩に体当たりをしたりするのだ。 無論状況によっては怪我をするし、体当たりをする場合でも、あまり力を入れてぶつかると自分の方が痛くなるのは、先程のれいむの壁への体当たりや、男に蹴られた場面を見れば分かるだろう。 しかし、人間が作る饅頭のような強度では、そもそも自然界で生活することなど不可能である。 ゆっくりは衝撃に強い(当社比)。これがゆっくりの事実である。 しかし、それはあくまで外面のことである。 如何に外面が強くなろうと、中まではそうはいかない。 体を鍛えに鍛えた人間が、歯の神経に触れられて痛みを我慢できないように、ゆっくりも内面までは強化・成長することは出来ない。 ゆっくりの餡子に神経があるのかは不明だが、少なくとも痛覚があることは間違いのない事実である。 結果、分厚い皮を通り越して餡子を直接刺激する針の虐待は、単純ではあるが、これでもかというほどれいむを苦しめる結果となったのである。 「まりさもおんなじだよ!! とってもいたかったよ!!」 「あしたもあんなことをされるのかしら……」 「ゆぅぅ……ゆっくりいやだよぉ……」 「いたくならないほうほうを、ゆっくりかんがえようね!!」 「でもきょうのはてかげんしたって、おにいさんがいってたよ!! あしたはきっともっとひどいことをされるよ!!」 「ゆっ!! そうだったね……」 「ゆぅ……」 対策を立てるつもりが、逆に落ち込んでしまうれいむ。 そもそも、万事が男の都合で動くのに、対策など立てようがないのだ。 せいぜい媚を売って軽減してもらうか、最悪自殺でもしない限り、この状況から抜け出せることはない。 とは言え、虐待する気満々の男に媚を売っても聞くはずはないし、ゆっくりにはそもそも自殺という概念が存在しない。 自分で自分を殺すということに、理解が及ばないのだ。 その後、結局有益な情報交換も出来ないまま、適当に男の悪口を言ったり、明日も頑張って耐えようと励ましあったりして、会話はお開きとなった。 れいむは、もう少し二匹と話をしていたかった。 言葉を交わしていないと、不安に押しつぶされそうになるのだ。 しかし、まりさもありすも、男の虐待によって、心身共に疲れ切っている。 れいむの我儘でこれ以上二匹を疲れさせるわけにはいかなかった。 男は虐待に飽きたら森に帰すと言ってくれた。 まりさやありすはその言葉に懐疑的であったし、れいむもいくら呑気者とはいえ、男にあれだけのことをされて、その言葉をホイホイと信じるほど愚かではなかった。 しかし、それでも今はその言葉にすがる以外、この苦境から出る術が無いのも事実である。 明日を、明後日を乗り越えるためにも、こんなところで無駄に体力を使ってはいられない。 れいむは再びドッグフードと水を体に詰め込む。明日に残る体力は、多ければ多いに越したことはない。 その後、毛布で全身を包み、固く目を瞑る。 明日行われるであろう男の虐待を否応なしに想像してしまうれいむだが、次第に体の疲れがそれを遠くに押しやった。 れいむは意識は、深い深い底に沈んでいった。 れいむが男に連れてこられて、一か月が経過した。 たかが一か月。しかしそれは、れいむの人生において、もっとも辛く、もっとも苦しく、そしてもっとも痛い一か月であった。 二日目にされた虐待は、辛い物地獄。 初めに唐辛子を無理やり口の中に詰め込まれた。 これもゆっくり虐待の定番の一つである。 「ゆぎゃああああぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!!! いだいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ――――――――――――!!!!!」 余りの痛みと熱さに、れいむは虐待部屋を駆け回る。 壁に体当たりをしたり、唇を噛んだりと、自分で痛みを作り出して、辛さを和らげる。 途中、自分でしておいてそんなれいむが気の毒に思ったのか、「れいむ、ほら水だ」と、男がボトルを渡してきた。 ゆっくりでも飲めるように、先にはストローが刺してあり、れいむはゆっくりに有るまじき速さで、それに食らいつく。 しかし…… 「ゆぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――――――――――――――――――――!!!!!」 そもそも、虐待を楽しむ男が水など寄こすはずもないのだ。 しかし、朦朧とした頭でそんなことを考えることが出来るはずもなく、れいむは男が寄こしたタバスコを一気に飲み上げ、口から火を吐き出した。 その後、男は「おっと、落としちゃったよ」とワザとらしい口調で七味をれいむの目に掛けたり、注射器で直接れいむの体にワサビを注入したりと、れいむを弄んだ。 れいむにとっては一生にも匹敵する一時間が過ぎると、「もう終わりか」と、実に残念そうにれいむを木箱に詰めて、元の部屋に帰した。 ちなみに男はれいむをこの虐待部屋に連れてくる時や戻す時、決まってれいむを木箱の中に詰めて部屋を行き来する。 これは男がある意図を持ってしていることであるが、それはいずれ分かるので、ここでは説明を省かせて頂こう。 部屋に着くや、れいむは桶に張ってある水の中にダイブした。 汚れを防ぐために敷かれたブルーシートに、水が飛び散る。 本来の用途は飲料であるが、そんなことを気にしていられるはずもなく、れいむは体がふやける限界まで、水に浸り、飲み続けた。 地獄から一転、天国のような心地よさ。 しかし、れいむのこの行動はあまりにも軽率すぎた。 部屋には毎日桶一杯の水しか設置されていない。 一日過ごすだけなら、その一杯で十分であり、何ら支障はない。 ところが、れいむは考えなしに水を使いまくったおかげで、水が空になってしまったのだ。 少しずつ飲んでいれば一日くらい持ったかもしれないが、水がないおかげで、一日中口の中が痛く、その夜れいむは寝ることが出来なかった。 寝れなければ、体力を回復することも出来なく、後日、れいむはさらに酷い虐待を味わうこととなってしまった。 ある日の虐待は、一時間、ひたすらケツバットをされたこともあった。 前述の通り、ゆっくりは外面への衝撃には比較的強い耐性を持っている。 しかし、男の尻叩きの威力がハンパなかったことと、同じ個所を延々と叩きつけられたことによって、その耐性ももはや意味を持たなかった。 「やめでえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――――――!!!!!」 紐で縛られ、天井から吊るされたれいむは、目を真っ赤にしながら男に止めてと懇願する。 それで止めるかといえば、言うまでもなく…… 「さあ、ピッチャー振りかぶって投げた!!! カッキーン!!! これは大きいぞ!!! 入った、ホムーラン、ホムーラン!!!」 自分の実況に合わせて、盛大にバットを叩きつける。 叩きつけられた衝撃はとてつもなく、れいむはそのまま天井と熱烈なキスをかます。 「ゆぶっ!!!!!」 その後、振り子のように戻ってくるれいむを、「特打でも始めるかね」と、野球少年のように目を輝かせて、バットを振り始める。 「ゆぎゃ!! ゆびっ!! ゆがあぁ!! ゆっ!! ゆごっ……………」 何十何百とれいむを打ち続ける男。 その眼はまるで高校球児のように輝いている。 最近、腹が出てきたことも、男をやる気にさせる要因の一つだろう。 部屋にかけてあった鳩時計が時間を知らせると、「ふう、いい汗かいたぜ」と、実にさわやかにタオルで汗を拭い取った。 その後、いつも通り、れいむを箱に詰めて部屋に戻す。 れいむは、その日も余りの痛さに、長い夜を眠れず過ごすことになった。 またある日は、こんな虐待もあった。 れいむは、疲れていた。 虐待なんてされているのだから、疲れているのも無理はないが、ここ最近は眠れない日が続き、いよいよもって心身共に限界に来ていた次期であった。 そんなれいむの事情を知り、さすがにまずいと思い始めた男は、プログラムを変更し、れいむを休ませることにした。 と言っても、虐待を抜くわけではない。 「れいむ、今日は一切暴力はなしだ」 男がれいむに言った。 れいむは信じられなかった。 今まで十何回も自身を痛めつけてきた男の言葉だ。 何度も甘い言葉を吐いてはれいむを騙し、それを見て嘲笑う男の言葉だ。 どこに信じられる要素があるというのだろう。 しかし、男はそんなれいむの考えなどどうでもよく、淡々と虐待の作業を行っている。 用意が終わると、「これを見ろ」と、れいむに命令する。 反抗したいが、反抗すればそれだけキツイお仕置きが待っている。 もうすっかり慣れた物だ。 男が見ろと言った物に目を向けると、それは箱だった。大小二つの箱が、れいむの目の前に置かれている。 と言っても、最初にれいむが入っていた木箱ではない。 訳の分からないれいむに、男が説明をしてくる。 「これは“てれびじょん”、そしてこっちは“べーた”というものらしい。この二つを組み合わせることで、なんと絵を映し出すことが出来るという優れものだ。 最近、幻想郷に結構入ってきている物らしくてな。ここに来るってことは、外の世界で忘れられた物なんだが……こんな便利な物がどうして忘れられるのかねえ?」 男は不思議だと首をひねる。 その後、「まあいいや」と、男は箱に付いている凹凸を押したり、回したりした。 すると、突然箱の中に、ゆっくりが出現しだした。 「ゆゆっ!!」 れいむは驚き、箱を凝視する。 箱の中には白黒のゆっくりがおり、元気よく走りまわっていた。 ゆっくりに限らず、箱の中の木も草も花も空も、すべてが白黒であった。 「ど、どうして、はこのなかにゆっくりがいるの? なんて、みんないろがついていないの?」 「さっきも言った様に、これは絵を映し出す魔法の箱だ。このデカいカメラで撮ったものは、“てーぷ”に収められて、これで映し出すことが出来る。白黒なのは仕様だから気にするな」 「ゆぅぅ……」 男の説明は全くもって意味不明であった。 しかし、れいむにはそんなことはどうでもよかった。 久しぶりにゆっくりの姿を見れた。 まりさとありすとは、毎日のように言葉を交わすも、初日以来、一度も姿を見ていなかった。 それだけに、白黒とはいえ、箱の中で楽しそうに遊んでいる同胞たちの姿を見て、れいむの疲れ切った心と体は、久しぶりに潤いで満たされ始めた。 「どうだ、楽しそうだろう」 男がれいむに声をかけてくる。 れいむはと言えば、一瞬男が敵であることも忘れて、嬉しそうに反応する。 「ゆう!! たのしそうだよ!! れいむも、みんなといっしょにあそびたいよ!!」 久しぶりに浮かべるゆっくりした笑顔。 しかし、これは虐待の一環。 それが今日最初で最後の笑顔であった。 ザアアアアアアアァァァァァァァ―――――――――― 「ゆっ!?」 突然、箱に砂嵐が舞い降り、映像が見えなくなった。 れいむは男に問いただそうとした瞬間、すぐに砂嵐は収まった。 「ゆゆっ!! もとにもどっ……………………ゆゆゆゆゆっ!!!!!」 映し出されたそれを見て、れいむは目を疑った。 一瞬にして、笑顔が凍りつく。 そこに映された物は、阿鼻叫喚の地獄絵図であった。 『やめでええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――――!!!!』 『なんでごんなごどずるのおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――――――――!!!!!』 『でいぶのあがぢゃんがあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――!!!!』 『まりちゃ、ちにだぐないよおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――――!!!!!』 『おがあぢゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――ん!!!!!』 平和でのどかなゆっくり家族の映像が、一転して虐殺風景に早変わりする。 ある子れいむは、口に両手を入れられると、そのまま体を真っ二つに引き裂かれた。 ある子まりさは、サッカーボールの如く蹴られ、岩に激突し、餡子をは弾かせた。 ある赤れいむは、人間に体の半分を噛み千切られた。 ある赤まりさは、おろし金で体を削られた。 「な、な、な、なんでえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――!!!!!」 れいむも、テレビの中のゆっくりに負けず劣らずの大絶叫を上げる。 「なんでっていわれてもなあ……一時間、延々とゆっくりのゆっくり出来ない姿を見ることが、今日の虐待プラグラムだしな。最初に説明しただろ、今日は暴力は無しだって」 「だがらっで、なんでこんなのみぜるのおおおおおぉぉぉぉぉ―――――――――――――!!!!!」 「虐待の一貫なんだから、ゆっくりのゆっくりしている光景を見せるわけないだろ。それとも何か? いつもみたいに痛い虐待の方がいいのか?」 「ぞんなわげないでじょおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――――――――!!!!」 「なら素直に見なさい。これは『The☆虐待』というタイトルの、とても素敵な一本だぞ。虐待士やマニアが喉から手が出るほど欲しがる品だ。垂涎物だぞ。 お前の為に、わざわざ高い金出して買ったんだ。ありがたく思えよ」 「ぜんぜんうれじぐないよおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――――――!!!!!」 れいむはあまりの酷さに、目を背けようとするも、男に目蓋を安全ピンで括りつけられ、目が閉じないようにされてしまう。 ん? まばたき? いや、ゆっくりにまばたきは必要ないっしょ、ゆっくりだし。 「それじゃあ、一緒に見ような」 「やだああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――!!!!!」 男はテレビの前で胡坐を組み、その上にれいむを載せる。 そして、れいむの頭の上に優しく手を乗せた。決して固定しているわけではない。 その光景は、老人が孫をひ膝に乗せて一緒にテレビを見るという、極ありふれたシーンを彷彿をさせる。 「ゆぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――!!!!」 その夜、れいむはゆっくりの死に様を延々と繰り返す悪夢にうなされながらも、久しぶりに熟睡することができた。 その4へ
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ゆっくり水攻め 水が出ない。 幻想卿の外から来たというポンプを買って一週間。 勝手に水を汲んで水を運んでくれる便利なものを買って、とても満足していたがまさかこれほど早く壊れるとは。 決して安い買い物ではなかったそれをどうにかできないかとポンプのある場所にやってきた。 ポンプ置き場に着くと奇妙なことにポンプのスイッチが入ってなかった。 妖怪には見えないようにお札を貼っていたし、押さないようにと注意書きもあった。子供はここまで遊びに来ないはず・・・ そんなことを考えながら他に壊れていそうなところはないかと確認していくと、機械の裏側ですやすやと寝息をたてているゆっくりを見つけた。 こいつがスイッチを押したのだろうか? 起こさないことにはこの疑問は晴れないのでゆっくりにデコピンをかます。 「ゆぐっ!」 まだ子供なのかとても軽く、デコピン一発で機械にぶつかり、「ぶべっ!」とずるずる落ちてきた。 回復する前に両手で捕まえ、ここで何しているのか聞く。 「ゆっくりあそんでたよ!」 ここでどうやって遊んでたんだい? 「ここでとぶとね、ぴかぴかするんだよ!」 とポンプの電源スイッチの上で飛び跳ねていた。ぴかぴかとは電源が入ったことを伝えるランプのことだ。 納得がいった自分は片手でゆっくりを抑えながらデコピンをする。 ここはおじさんのものなんだ。勝手に遊んじゃだめだよ。これは消えると困るんだ。わかったかな?かな? 一文ごとに一発デコピンをかます。食らうごとに痛い痛いと叫ぶ子ゆっくり。 耐え切れなくなったのか。 「ゆっくりはなしてね!これじゃゆっくりできないよ!」 「もうやだ!おうちかえる!」 と、泣き始めた。 とりあえずポンプが故障したわけでは無さそうだが動くか確認がしたい。 さっきこいつは巣があると言っていたのでそこで試そうと、巣を教えてくれれば助けてあげるよと聞いてみる。 野生のゆっくりは警戒心が強いが子ゆっくりなら大丈夫だろう。 すぐに、 「ゆ!ゆっくりおしえるからたすけてね!」 と、笑顔になって案内してくれるのを笑いながらゆっくりにおしえてもらい、巣を見つける。 その巣は木の根元にある穴で草や枯葉で巧妙に隠していたので教えて貰わないと分からなかったかもしれない。 畑や人の家に上がりこむゆっくりは大抵昔飼われていたり、加工場から逃げた奴である。 本当の野生のゆっくりは人にめったに近づかず、このように巣を作って過ごす。 「おしえたからゆっくりはなしてね!」 「いえでゆっくりするからどっかいってね!」 いまだ腕に掴まれたゆっくりが急かすので約束どおりはなしてやる。 れいむはぴょんぴょんと飛び跳ね巣に近づいていく。巣に近づくと先ほどの声に気づいたのか中からもう一匹のれいむが顔を出す。 「「ゆっくりしていってね!!」」 仲良く頬をすり合わせ中に入っていく。どうやら自分のことはもう忘れたらしい。野生で知能があるといっても所詮はゆっくりである。 ゆっくりどもが中に完全に入ったのを確認した後穴に近づき聞き耳を立てる。 「ゆっくりしすぎだよ!おかあさんしんぱいしたんだからね!」 「みんなしんぱいしたんだよ!」「おねーちゃんゆっくりしすぎー!」 「ゆっ!ゆっ!」 どうやら母れいむ一匹と子ゆっくりが3匹、赤ちゃんゆっくりが一匹と普通のゆっくりれいむ一家のようだ。 帰ってこない子ゆっくりを心配していたのか聞き耳を立てるまでもなかった。 子ゆっくりは包み隠さず正直に話した。 「ゆゆ!ゆっくりしすぎてないよ!にんげんにつかまってゆっくりできなかったんだよ!」 「に、にんげん!」 子ゆっくりの発言に母ゆっくりの態度が変わる。 「ゆっくりにげれたんだね!こわかったね!」 「もうあんしんだからね!すはみつからないよ!」 母ゆっくりはにんげんの怖さを知っているのだろう。巣にいれば気づかれず安全と子ゆっくりに言い聞かせる。 しかし、子ゆっくりが言った次の言葉に自分がいままで人間の怖さを教えてなかったのを悔やんだ。 「すをおしえたらたすけてくれるっていったからいったらたすけてもらったよ!こわかったー!」 「「ナ、ナンダッtt-!」」「ゆー!」 この声は子れいむと赤ちゃんゆっくりだろう、人間を見たことない子供達は未知のものに興味をもったらしい。 しかし、怖さを知っている母ゆっくりはさぞかし子供の発言に驚いたのだろう、 「どお゜じでぞん゜な゜ごどずる゜の゜ー!」 と、外に丸聞こえな叫び声を上げた。 「ゆぐっ!」 この声からするに子れいむを突き飛ばしたのだろう。ゆっくりのすすり泣く声が聞こえる。 と、巣から這い出てくる気配がするので巣目の前に移動する。 母ゆっくりが人間が来てないか確認しにきたのだろう。もぞもぞと巣の入り口のものが取り除かれていく。 自分はわくわくしながらゆっくりが顔を出すのを待った。 「ゆ、ゆ、ゆっくりー!!」 まさか巣の目の前に人間がいるとは思ってなかったらしく、驚き叫ぶ母ゆっくり。決して怖い顔だったからではない。 そこで捕まえてもよかったが、今回は見逃してやる。 「そこでゆっくりしててね!」 急いで巣の中に戻る母ゆっくり。ここにいるとゆっくり出来ないのではないかという疑問を抱きながらまた聞き耳を立てる。 「おかーさんどうしたの!」 「そとににんげんがいたの?」 「おがーさんごめ゜ん゙な゜ざい゜~!」 「ゆゆー!」 母ゆっくりの叫び声を子供達は怯えながら戻ってきた母を心配しているのだろう。殴られたゆっくりと赤ちゃんゆっくりはどう思ってるか知らないが。 「そとはあぶないからいっちゃだめだよ!」 「にんげんがいるんでしょ?みたいみたい!」 「だめだよ!にんげんはとってもこわいんだよ!たべられちゃうよ!」 「ゆゆゆゆ!たべられちゃうのい゜や゜だー!」 「おねーちゃんどうしておしえたの゛ー!」 「ご、ごめ゙ん゙な゙ざい゙ー!」 「ゆー!ゆー!」 「だいじょうぶだよ!ここはあんぜんだからね!しずかにしてたらどこかにいくよ!」 よく聞こえる声だ。もっと聞いていたかったがあまり時間をかけるのも面倒なのでゆっくりと遊ぶための準備をしていく。 まずゆっくり共の巣の入り口に土で壁を作る。これからすることから逃げれないようしっかりと固めておく。 準備が終わるとポンプの場所に向かう。ゆっくりは水が苦手にもかかわらず、飲み水のために水場の近くに巣を作るのでホースが届かなくなることはなかった。 そしてポンプの電源を入れる。後はホースのスイッチを押せば水がすぐに出るだろう。 ポンプ掃除用に置いてあった桶にも水を汲み持っていくことにする。 途中で逃げないように声を出してゆっくりが逃げないようにするのも忘れない。声をかけるたび 「こわいよー!」 「ゆっくりどっかいってね!」という子ゆっくりの声と 「だいじょうぶだからね!だからしずかにしてね!」 という声が聞こえた。母ゆっくりの声が少し聞き取り難かったが、それでもいることは確認できた。 必要な分の水を準備し終わり、最後の締めをしようと巣に近づくと、母ゆっくりの声が聞き取り難い理由が分かった。 穴を掘っているのだ。 どうやら別の出口を作りそこから逃げ出そうというのだろう。畑で捕まえたゆっくりはただ震えていただけだったし、子ゆっくりが馬鹿だったので油断していた。 もう少しくるのが遅かったら逃げられていただろう、冷や汗をかきながら少し計画を変更、すぐさま新しい出口になるだろうポイントを探す。 母ゆっくりの姿が見えないので難しいと思っていたが、少し藪を掻き分けたらすぐに見つかった。 ある場所に生えている植物が倒れかけている。どうやら植物の根を食べているのだろう。 しばらくすると「ゆっ!」という声とともに小さな穴が開いた。すぐに穴が広がってゆっくりが通れるほどになるだろう。 自分は急いでホースと桶ををその穴の近くに移動させる。 先ほどのポイントに戻るともう母ゆっくりは穴から出ていた。子ゆっくりたちを外に出せばもう安全だと思ってるのか顔が笑顔だ。 「ここからでればたすかるからね!でてゆっくりしようね!」 「あのにんげんがばかでたすかったね!」 「れいむをだますわるいやつだったね!」 「あのままいりぐちでゆっくりしてるといいよ!」 「ゆっゆっゆー!」 完全に人間から逃げおおせたと思っている。そんなに大きい声をあげたら気づかれるとは思わないのだろうか。 とにかく気づかれないのは好都合なのでそろりそろり母ゆっくりの後ろに水を張った桶を持って回り込む。 母ゆっくりは子供達が出れるように蔦を口に咥えて穴を覗き込んでいて自分が後ろにいることに気づかない。 蔦を口に含み穴を覗き込んだ母ゆっくりの後ろで水を汲んだ桶を持って立つと言う他人が見たら奇妙に思う格好で待っていると 「まずはあかちゃんからだよ!」 「おねーちゃんたちはあとからでるからね!」 「さきにゆっくりしててね!」 「ゆっ!」 姉妹愛かまず赤ちゃんゆっくりが出てくるらしい。母ゆっくりが蔦を引っ張ると少しずつ赤ちゃんゆっくりのかわいらしい顔が見えてくる。 久しぶりの日差しに目が慣れていないのか目をパチパチさせながら、 「「ゆ~♪」」 と母子が言ったのと、自分が桶の水を流し込んだのは同時だった。 「ゆ゙ー!!」 「あ゙あ゙あ゙あ゙ー!!!」 赤ちゃんゆっくりが桶から勢いよく流れた水に流され穴に戻されていく。 すぐ下で次に蔦が降りてくるのを待っていた子ゆっくりたちも赤ちゃんゆっくりとともに流れてきた水に驚き急いで穴を戻っていく。 「「「い゙や゛ー!み゙ずごわ゙い゙ー!!」」」 心地よい悲鳴を上げながら水から逃げ切ったのだろう息を切らした音が聞こえる。 赤ちゃんゆっくりは直撃を受け、皮をぶよんぶよんにして地面にへばりついている。まだ餡子が流れず、息があるのか、 「ゆ゜っ!・・・ゆ゙っ!・・・」 とピクピク震えていた。 もう少しどうなったのか確認しようとすると足に軽い衝撃。どうやら母ゆっくりが体当たりしてきたようだ 「どお゙じでごん゙な゙ごどずる゙の゙ー!!」 おお怒りゲージMAXなのか顔が紅白饅頭の赤い方みたいだ。うるさいので穴をのぞけるように調整して踏みつける。 「ゆぎゅっ!」とか言うが気にしない。餡子が出ない程度に踏みつける。 時間をくったので穴の中では水でふやけた赤ちゃんゆっくりを子ゆっくりたちがゆっくりと乾いた地面へ運んでいるところだった。 「ゆっくりげんきだしてね!」 「すぐにかわくからじっとしててね!」 「ゆっ・・・」 「それまでおねえちゃんがまもってあげるね!」 ポンプのスイッチを押す。 「や゙、や゙め゙でー!!」 「「「ゆ?」」」 子ゆっくりが母ゆっくりの叫び声に気づき振り向く。 そこにはポンプから流れ出る水がゆっくりと迫ってきてるではないか。 「「「い゙や゛ー!!!」」」 「ゆぐゅ!」 先ほどまでの姉妹愛はどこへやら、赤ちゃんゆっくりを放り出し逃げ出す子ゆっくりたち。 赤ちゃんゆっくりは這いずることも出来ず、流れてくる水をみながら、初めて言葉を話した。 「ゆっくりしたけっかがこれだよ!」 子ゆっくりたちは巣の入り口を目指す。後ろからは水が迫ってるから逃げるには入り口しかない。 人間がいるかも、と言う考えは今の子ゆっくりたちには考えられなかった。先ほどの赤ちゃんゆっくりの悲鳴で子ゆっくりたちはパニックになっていた。 「おねーちゃんがさきだよ!」 「おねーちゃんはゆっくりしてね!れいむがさきにいくよ!」 「げん゙がじな゙い゙で~!!」 我先にと争いながら逃げるゆっくり二匹とそれをなだめる一匹は何とか巣の入り口に着いた。ここからなら出られるだろう。 急いで入り口を隠していたものを取り除こうとすると気づく、これまで隠していた枯葉や枝ではなく土が壁となって入り口を塞いでいることに。 三匹は絶望に苛まれながらも母ゆっくりがしていたように少しずつ穴を掘っていく。 しかし、母ゆっくりのように上手くいかず、水が迫る恐怖心から三匹が別々に穴を掘っていた。 もし三匹が協力して穴を掘ってたら助かったかもしれない。しかし子ゆっくりたちはそのようなことを考える余裕はなかった。 「れいむがほったあなにつちをもってこないでね!」 「そっちこそこっちにつちをとばさないでね!」 「ゆっくりいそいでね!けんかしないでね!」 喧嘩を止めようと声を出しているゆっくりも体は自分用の穴を掘るのに必死だ。 死にたくない。死にたくない。死にたくない。 三匹にはそれしか考えられず、懸命に自分用の穴を掘り続けた。 しかし、もう水はそこまで来ている。もう間に合わないのではないか。 一番小さな子ゆっくりはこの状態に耐えられなくなった。 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙だずげでー!」 叫びながら飛び跳ねる。掘った穴が崩れるが気にしない。 「い゙や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」 どうやら一番小さい子ゆっくりのせいで真ん中のゆっくりが掘っていた穴も崩れたらしい。真ん中のゆっくりが悲鳴を上げる。 残ったのは一番大きい子ゆっくりが掘っていた穴だけ。 一番大きいゆっくりが後ろの悲鳴に振り向くと二匹が体当たりしてくるのは同時だった。 「「だずげでお゙ね゙え゙ーぢゃん゙!」」 「あ゙な゙がぼれ゙な゙い゙い゙い゙い゙!」 さっきまで喧嘩していたのに図々しく姉に頼ろうとするゆっくり。しかしそのせいで姉ゆっくりは穴が掘れず、最後の希望も潰えてしまった。 追いついた水に三匹仲良く流される。 「「「い゙や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」」」 三匹の悲鳴はそれが最後だった。後は少しばかりぼこぼこと空気の音がしたが、それも終わると後は静寂が残った。 ふと、踏みつけていたゆっくりの反応がないので足元を見ると、先ほどの事実に耐えられなかったのか紅白饅頭のように白くなっていた。 持ちあげると口を開け白目をむいたままだったので軽く打つ。 しかしまったく反応がないのでとりあえず木に吊るしてその場を離れる。夜になればれみりゃにでも食べられているだろう。 埋めた入り口まで戻り、逃げてないことを確認し、この場を離れる。 ポンプの故障ではなかったことに安堵し、畑までポンプを戻す。 次からこのようなことがないように罠を仕掛けたほうがいいかなと思った。 このSSに感想を付ける
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※このSSはfuku1450の続きというか、アナザーストーリーです。 ※作者の762さん、勝手に設定を使ってしまい、すいません。 その日、フラワーマスターの異名を持つ風見幽香は酷く機嫌が悪かった。 ゆっくりゆうかのせいである。 本当は違うのかもしれないが、ゆっくりゆうかのせいだと思わなければ、彼女はやっていられないのだ。 苛立ちを、近くにいるゆっくりを全て叩き潰す事で僅かに晴らしつつ、幽香はそこら辺をぶらぶらと散歩し続けた。 『ゆっくり後悔し続けてね!』 その数日前。 幽香は、好奇心に満ち溢れた顔で、道を急いでいた。 自分に似たゆっくりがおり、そのゆっくりは花畑を作っていると言われたためである。 花の妖怪である自分に似ているのだから、ゆっくりだとしても花畑を作り出すのは当然という思いから、幽香は道を急いでいた。 ――ここはこの花よりこっちが良いわ。それに、あそこはもっと肥料をあげないと。あなたが肥料になるかしら? ――あぁ、こんな所に肥料をやっちゃダメじゃないの。あなた、本気で花を育てる気があるのかしら? そんな、大量のダメ出しを夢想している幽香は、自分の口が笑いの形に歪んで来ているとは思いもしなかった。 このフラワーマスター、真性のドSである。 ともあれ、幽香は目的の花畑にたどり着いた。 「なにこれ……」 口だけが笑っていた幽香の表情が、驚愕のそれに変わった。 小さい。 いや、ゆっくりが育てると考えると、大きめなのだろう。そもそも、花畑の大小はその美しさに関連はないと幽香は考えている。 種類が4種類しかない。 これも、ゆっくりが育てている事とここの土壌の質を考えると、これが限界だろう。下手に手を加えては自然の美しさが損なわれてしまう。 全体的に肥料が少ない。 ここに肥料をぶちまけようとする者がいたら、幽香によるマスタースパークでチリと化すだろう。肥料はこのままで良い。 そして、美しい。 幽香が驚いてしまうほどに、多数の花が、最も美しく見える様に考え抜かれた配置で置かれている。 その真ん中にいるゆっくりゆうかを見て、幽香はより驚いた。 泥だらけになりながら、本当に楽しそうに、大事な宝物を扱う様に花を慎重に手入れしている。 ――似ているなんてもんじゃないわよ、あれ。 それは、ただ花と一緒に生きられる事だけで嬉しかった、数百年前の風見幽香そのものの姿だった。 幽香は、無言でその場を後にした。 ダメ出しも何もない。ここは、既に完成した花畑である。 確かにフラワーマスターとしての目から見るとまだアラはあるが、それでも、一個の完成しようとしている作品に手を入れる事はできなかった。 その一時間前。 幽香は、何となく面白くない顔で、道を急いでいた。 自分に似たゆっくりが作り続けている作品の果てを見届けるためである。 果てと言っても、マスタースパークをブチ込んで破壊しようという意味ではない。 むしろ、そんな事をしようとする相手に幽香自身のマスタースパークが5発ほど打ち込まれるだろう。 幽香は、一個のまだ荒削りな芸術作品の完成を見届けようとしているのである。 完成後のダメ出しならばいくらでもするつもりだ。自分が手本を見せても良い。何なら連れ帰っても良い。 太陽の畑を、まだ荒削りなその技術で整えようとして何度も失敗を繰り返し、涙を流しながらも何度もやり直すゆっくりゆうか。 そして、叱りつつも段々と成長を遂げていくゆうかを眺めて良い気分になる自分……幽香の脳裏に、そんな未来が現実感を持って迫っていた。 叱る想像をしたから機嫌が直ったのか、笑顔になって更に道を急ぐドS……もとい、幽香。 だから、幽香は途中で5つの饅頭とすれ違った事に気が付かなかった。いや、気が付けなかった。 その数分後。 幽香は、その場に立ち尽くしていた。 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ~♪」 「こっちもうめぇよ! ゆっくりできるよ~♪」 「ここはさいこうのゆっくりプレイスだね!」 「ちがうよ! でんせつのゆっくりぱらだいすだよ!」 「ゆっくりぱらだいす!?」 「しっているのかみょん!」 「ちちんぽ……ぜんぜんしらないちーんぽ!」 「じゃあなんでしってるみたいなこといったの? わからないよーwww」 饅頭どもの爆笑に包まれるそこを見た時、幽香は記憶違いだったかと思ってしまった。 それほどに様変わりしてしまった元芸術作品の片隅で、幽香はただ立ち尽くしていた。 ――そう。 4つあった花畑は、全てが色とりどりの薄汚い饅頭どもによって食い荒らされていた。 ゆっくりゆうかはいない。どのゆっくりがやったのかは分からないが、恐らくは殺されたのだろう。食われたのかもしれない。 ――あの子は、もういないのね。 「あれ、そういえばあのこたちとめーりんは?」 「しらなーい、まだいじめてるんじゃない?」 「あのこたちもめーりんいじめがすきだよねーw」 「ほんとーw ゆっくりするほうがたのしいのにねーw」 ――『ゆっくり』理解させてもらったわ。 「そういえば、ここをかってにせんりょうしてたゆうかはどこ?」 「ゆっくりこっちにすてたよ! あれ、いないよー?」 「あのこたちがつれてったよ、きっと、ゆっくりたべるんだよ!」 「れいむたちもたべたいなー」 「あとでもらいにいこうね! よにんだけなんだから、おねがいしたらすぐくれるよ!」 食べる。あの子を『四人組』が食べる。 太陽の畑へと連れ帰る予定だったあの子を。こいつらが、食べる。 ――お礼に『ゆっくり』させてあげるわ。永久にね。 幽香の頭のどこかから、ブチンと何かが切れる音が聞こえた。 同時刻、ゆっくりの群れ。 「あのこたちはすごくゆっくりしてるよね! こんなにいっぱいごはんあるところをしょうかいしてくれたんだもん!」 「だよね! ほんとにあのこたちはゆっくりしてるよ! おれいに、みんなでゆっくりしてあげようね!」 このゆっくりの群れは、今、心の底から幸せだった。 たくさんのごちそうがある。たくさんの仲間と一緒にいる。たくさんゆっくりできる。 それだけの状況が揃っていて、幸せじゃないゆっくりなんてゆっくりじゃない。そう思うほどに、幸せだった。 不意に、パチンと手を叩く音が響いた。 それと同時に、何か粉の様な物体が辺りを舞う。 日の光で美しく輝くそれは、ゆっくり達が初めて見るものだ。 「うわー、あれなにー?」 「ゆっくりしてるね! すごくきれいだよ!」 「ここはみんなのゆっくりプレイスだけど、ゆっくりできるこならたくさんゆっくりしていってね!」 キラキラと輝くそれを、ゆっくり達は幸せそうに眺めていた。 また、ぱちんと手を叩く音が響く。 影が、それに応じてゆっくりの群れの方へと近づいてくる。 ゆっくり達は、自分の願いが聞き入れられたと思い、嬉しくなって飛び跳ねた。 「ゆっくりしていっぐびゅぅ!?」 気の早いゆっくりがそれに頬をすり寄せようと近づいた……と思った直後、突然その場でぶるぶると震え出す。 異様なその状況に、群れのゆっくり達はざわざわと騒ぎながら近づいていった。 「どうしたの? ゆっくりしてよ!」 「どこかいたくしたの? ゆっくりすればなおるよ!」 「なんでなにもいわないの? おくちのなかいたくしたの……ゆびゃぁぁぁ!!! なにごれぇぇぇ!!!」 近づいたゆっくり達が、一斉にその場から飛び跳ねて逃げる。 そこに「あった」のは、もうゆっくりではなかった。 真ん中に杭が打ち込まれた様に、みっちりと何かが詰まっている何か。 仲間だったものの目から口から、皮を突き破ってどんどんと成長を遂げていくそれを見て、ゆっくり達の群れは恐慌に襲われた。 「ゆぎゃぁぁぁ!!!」 「なにごれぇぇぇ!!!」 「ごわいよぉぉぉ!!!」 それぞれに泣き叫ぶゆっくり達。 だが、真の恐怖はこれから始まるのである。 「ゆぎゅっ! ……ぺっぺっ! けむいよ! なにこれ!」 「くちゅん! ゆっくりできないよ! くちゅん!」 仲間だったそれは、今や完全に樹木と化している。 それの先端からぶわっと煙の様な何かが撒き散らされ、周囲は大量の花粉に覆われた。 「ゆぎゃぁぁぁ!!! いだい! いだいよぉがぶぅ!!!」 「なにごれ! なにごれぇぇぇぎゃらっば!!!」 「だずげで、ゆっぐりざぜでぇぇぇえひぃぃ!!!」 ばつんばつんと、音を立ててゆっくり達の体内から、柔らかい饅頭の皮を突き破って樹木が生えていく。 ゆっくり達の群れは、ほどなく樹木の群れへと生まれ変わったのである。 フウバイカ 「風媒花。どう? とてもゆっくりできるでしょう?」 ぽつりと、無表情に幽香は呟いた。 風媒花とは、その名の通り風を花粉の媒介として利用する種類の植物である。 虫を引き付ける必要がないために花びらがないものもあり、またあっても目立たず、香りもほとんどない。花と言えるかどうかも怪しい。 「本当、生物としても食物としても中途半端なこいつらにはお似合いの墓標ね」 その一言を残して、幽香はその場を後にした。 その一時間後。 幽香は、無表情に道を歩いていた。 その目は暗く光っており、下手に触れると消滅させられてしまうのではないかと思われるほどの恐ろしさに満ちている。 幽香は、時々立ち止まっては何かを探す様に周囲を眺めている。 本来ならば、どんな奥地に潜むものであろうと、草花ですぐに探し出す事が出来る。 だが、幽香はあえて自力で見つけ出そうとしていた。 頭に浮かぶのは、僅か数日前に見つけた、泥だらけで楽しそうに花の世話をする数百年前の自分の姿。 その頃は、自分はここまでの大妖怪ではなく、花との関係も友達のそれであった。 数百年前の幽香は、花の妖怪ではなく、花の世話をするのが好きなだけのただの妖怪未満の少女であった。 ならば、花を利用して探し出すなどできっこない。 幽香は、道の途中途中で見つけたしおれた草花を優しく癒してやりながら、無表情に道を歩き続けた。 「見つけた」 呟きが、風に溶けていく。 目の前には、やけに楽しそうな四匹のゆっくり達と、一匹の四角いゆっくり。 幽香は、誰が見ても分かるだろう作り笑顔で憎むべき饅頭どもの前に降り立った。 「こんにちは、ゆっくりしているかしら?」 「ゆっ! おばさんだれ?」 「ゆっくりできるひと? ゆっくりできないならさっさとどっかいってね!」 「ありすはとかいはなんだからさいこうにゆっくりしてるにきまってるでしょ!? おばさんばかなの?」 「むきゅーん! ばかなおばさんとはゆっくりできないよ! さっさとどっかいってね!」 「うーうー♪」 ただ笑顔で話しかけただけの幽香にここまでの暴言を吐く四匹のゆっくりと、何が楽しいのか分からないが、ただ笑っている四角いゆっくり。 だが、ここまでの腐れた根性の持ち主が良く生き延びられたものだと感心するのはまだ早いだろう。 もうすぐ、五匹は終わる。完膚なきまでに。 幽香は内心の感情を押し込めて、張り付いた様な笑顔のままで誘いをかけた。 「残念ね。もっとゆっくり出来る場所に案内しようと思ったのだけれど」 「ゆゆっ! ゆっくりできるところならいきたいよ! さっさとあんないしてね!」 「ゆっくりプレイスはみのがさないよ! さっさとつれていってね!」 「いなかものはむだにもったいぶるからきらいよ! でも、ゆっくりできるならいってあげなくもないわよ!」 「むきゅきゅん! ゆっくりできるところならぱちぇもたくさんしってるけど、おばさんのいってるとこはもっとゆっくりできるでしょうね!?」 「うーうー♪」 早く早くと急かすゆっくり四匹をなだめながら、幽香はゆっくりと歩き出した。 後ろからフラフラと追いかけてくるうーパックも、せっかくだから連れて行く。 その方向は、太陽の畑。 その二時間後。 「「「ここがゆっくりできるばしょなの!?」」」 「うー、ううー♪」 太陽の畑。 そこは、ひまわりが咲き誇る幽香の庭であり、故郷であり、砦でもある場所。 四匹のゆっくりにうーパックを含めた五匹は、珍しそうに辺りを眺めていた。 「ええ、あなたたちにはここで永遠にゆっくりしていただくわ」 そんなゆっくり達に、幽香はキラキラと光る何かを振り掛けた。 「ゆゆっ!? このきらきらしたのなに? きれー」 「あまくないけど、きれいでしあわせー」 「むきゅん! これはきんぱくね! きらきらしてきれいだわ!」 「きんぱくくらい、とかいはのアリスはしってるわ! とかいのマナーのひとつだわ! おばさんにしてはわかってるじゃない!」 「うーうーうー♪」 キラキラと光る何かを振りかけられて、うーパックは素直に喜び、四匹のゆっくり達も口調が悪いが嬉しそうにしている。 「本来ならばあなた達には絶対に寄生しない菌類なのだけど、特別にあなた達のために性質を変えさせてもらったわ」 嬉しいでしょう? と微笑む幽香に、ゆっくり達は大喜びで跳ね回りだした。 「ありがとう! じゃあ、おばさんにはもうようはないからゆっくりどっかいってね!」 「ゆっくりしたかったらべつのところでしてね! ここはまりさたちのゆっくりプレイスだよ!」 「ここはとかいはのアリスたちのゆっくりプレイスにしてあげるわ! ありがたくおもいながらどっかにきえなさい!」 「むきゅ、にんげんがいたらゆっくりできないから、さっさときえてね!」 「う、ううー?」 豹変する仲間についていけないのか、オロオロとしだすうーパック以外のゆっくり達が口々に出て行けと叫ぶのを聞いて、幽香は穏やかに頷いた。 「分かったわ、じゃあ、私はこれで失礼させてもらうわね。あなた達は、永久にそこでゆっくりしていきなさい」 じゃあね、と口の端のみに浮かべた笑顔を残して消える幽香。 「ゆぎゅっ、きえちゃったよ!?」 「にんげんはゆっくりしてないね!」 「むきゅ、これはてじなね、あのおばさんはマジシャンなんだわ」 「ま、まじしゃんくらいはとかいのじょうしきよね! もちろんアリスもおせわしてあげたわ! あのおばさんもアリスをそんけーしてるはずよ!」 ゆっくり達は目の前からいきなり消失した人間に少々面食らったが、ゆっくりできるのだから言う事はない。 お腹が空いたらそこら辺にあるひまわりをかじれば良いし、この辺りには危険な捕食種もいない様だ。 ゆっくり達は、思い思いにゆっくりし始めた。 うーパックはまだオロオロとしていたが、仲間がゆっくりしているのを見て、一緒にゆっくりしたくなったようで、大人しく近くに羽を休めた。 その二時間半後。 「「「ゆっくりしていってね!」」」 ゆっくり達は、ゆっくりするのにもう飽きたらしく、跳ね回って遊んでいた。 「ゆっくりたのしいねー!」 「すごくゆっくりできるよ! さすがまりさたちのゆっくりプレイスだね!」 「むきゅ、ゆっくりできるね。おばさんにごほんもってきてもらえたらもっとゆっくりできたんだけどね。きがきかないわねあのおばさん」 「パチェはほんだいすきなゆっくりだからね! とかいはのアリスは、ほんがなくてもゆっくりできるよ!」 「むきゅ、ただのうてんきなだけよ。アリスは」 「アリスはどっかのゆっくりと『ゆきずりのすっきり』ができたらいいんだもんね! ゆっくりしようよwww」 げらげらと笑い合うゆっくり達。 その様子をのんびりと見守っているうーパックは、ゆっくりしているためか、自分の体内に不思議なかゆみが出てきた事に気付けなかった。 それが、自分の生命を左右するとも知らずに。 その三時間後。 「うー……うー……うぐっ!」 「ゆぎゅ!?」 「ゆあっ!?」 「あぎゃ!?」 「むぎゅ!?」 びくんと、五匹同時にその場に立ち止まった。 異常な何かが、物体となって自分の内側からどんどんと膨れ上がっていく感触。 おぞましいその感覚に、五匹は身を震わせた。 「おばざん! まじじゃんのおばざん! なんがへんだよごれぇぇぇ!!!」 「なにごれ、ぎもぢわるいぃぃぃ! おばざん、ざっざどだずげでよぉぉぉ!!!」 「ぎもぢわるいぃぃぃ! ぎもぢわるいよぉぉぉ! どがいはになんでごどずるのぉぉぉ!!!」 「むぎゅ……きぼぢわどぅい……げほっ、エ”ホッ! ばぎぞうだよぉ……」 「うぐぐぐ……うー! うー! うー!!!」 いくらもがいても、自分の内側から膨れ上がってくる感触が押さえられない。 四匹は、泣き叫んで様々な者に助けを求めた。うーパックは、感触を少しでもどうにかしたくて、ただただ暴れまわっている。 「「「おばざん! おがーぢゃん! ……ぐずめーりん! ざっざどだずげろ!!!」」」 ゆっくりめーりん。ずっとバカにしていたそいつは、先ほど自分達の手で二度とゆっくり出来なくした。 だが、そんな事もアンコ脳には残っていないのか、ゆっくり達は延々と文句を喚き続ける。 「なにゆっぐりじでんのよぉぉぉ! ざっざどごっぢぎでだずげろばがめーりん!!!」 「おまえにやれるのはぞれだげなんだがら、まりざだぢのやぐにだであほめーりん!!!」 「ありずのがわりにいながもののおまえがどうにがじろまぬげめーりん!!!」 「むぎゅ……いらないごっていわれだぐながっだらざっざどだずげにごいぐずめーりん」 口々に怨嗟の声をあげるゆっくり達の目はにごり、もうどれだけの愛好者であってもこんなゆっくりだけは愛せないだろうと思えるほどに醜かった。 そんな中、症状の重かったうーパックが、凄まじい悲鳴を上げた。 「うぎゅあぁぁぁぁぁ!!!」 「「「ゆ……ゆぎゃぁぁぁぁぁ!!!」」」 がくがくと震えるうーパックの口から目から、様々な場所から、黒色の植物の芽の様なものが次々にはみ出してくる。 そのおぞましい光景に、ゆっくり達は悲鳴を上げる。 だが、慌てて口を閉じ、目を硬くつぶった。 いつ、自分からもあの芽が伸びてくるかわからない。それを考えると、目を開ける事も口を開く事も恐ろしかった。 「無駄よ、それはあなた達の体を突き破って出てくる。口を閉じようが目を閉じようが結末は何も変わらない」 不意に、近くからニンゲンの声が聞こえてきた。 その声が先ほどのマジシャンだと分かったまりさは、即座に口を開いて抗議しだした。 「おばざん! ざっざどまりざだぢをだずげでよ! おばざんがごごにづれでぎだんだがら、おばざんがなんどがじろぉぉぉ!!!」 抗議と言っても、ゆっくりではダダをこねる程度の事しか出来ない。 幽香は、笑顔で一言だけ答えた。 「あなた達を助ける気なんて毛一本ほどもないわ」 更に何か言おうとしたまりさの口から、数本の芽が飛び出してくる。 まりさは、文句を言う気など消えうせ、芽が様々な場所から生えだそうとするその感触を耐える事しか出来なくなった。 四匹のゆっくり達は、完全に寄生植物の宿主と成り果てたのである。 トウチュウカソウ 「冬虫夏草。あなた達に植え付けたのは、そういう名前の植物よ」 あえぐゆっくり達に対して、無表情なままの幽香は、独り言を漏らす様に告げた。 冬虫夏草とは、虫や植物に寄生して成長するタイプの菌類……キノコやカビなどの一種……である。 普通の冬虫夏草ならば、ゆっくりに寄生する事はありえないし、宿主を殺してから成長するのだが、これは幽香の特製である。 このゆっくり達は、もう死ぬ事も動く事も出来ず、冬虫夏草の奇妙な茎部分としてこれからずっと生き続けるのだ。 「あなた達に潰された草花の気持ち、そこでゆっくり理解すると良いわ」 じゃあ、さよなら。一言だけ残して、幽香はその場を後にした。 「まっでぇぇぇ! ゆっぐりざぜでよぉぉぉ!!!」 「おば……おねえざんんん! まりざだげでもだずげでよぉぉぉ!!!」 「ありず、いながものでいいでずがらだずげでぇぇぇ! おねがいでずぅぅぅ!!!」 「むっぎゅー!!! ばぢぇじんじゃう! ほんもよめないごんなどごじゃじんじゃうぅぅぅ!!!」 「うぎゅ……うー……」 五匹がそれぞれに境遇を嘆くその姿を、ひまわりがあざ笑うかの様にゆらゆらと揺れながらただ眺めていた。 花を食べたゆっくりは花に仕置きされるという事で、幽香りんにいじめてもらいました。 このゆっくりは、うーパックも含めて永久に苦しみ続ける事でしょう。 by319 このSSに感想を付ける
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前話【バードスイマー】 ついにやってきた大ゲート祭! ゲートをくぐればどの異世界の国にも行ける特別な一ヶ月! …六月が過ぎると最初にくぐったゲートに戻されるんだけどね ここ神戸のポートアイランド、異世界交流解放特区に設立された海と山の十津那学園は異種族亜人の多く通う特別な学園。 里帰りしたり行った事のない国へ行こうとする異世界出身者も多いけど、異世界に興味を持つ人間も多いんだ。 六月前から休学届けを出す生徒でごった返すのが毎年の恒例行事みたいになってるんだよね。 「…君達が一ヶ月も学業から遠ざかって大丈夫とでも?」 「大丈夫に決まってるじゃないすか!」 「…中間試験の結果を忘れてはいないだろうな?」 「が、学期末まで頑張ります」 「…」 「先生、七月の補修と補テストを受け、それをパスするというのはどうでしょうか?」 「坊ちゃんが試練を受けると言うのなら俺も!」 「分かった。 とりあえず休学届の件は少し待ってもらおう」 (うわー“あの”四人組も異世界に行くんだ) 既に勝利モードの人亜混ざる四人組と入れ違いで職員室に入ってきたのはとても小さな翼で羽毛がちょっと目立つ近人間見の鳥人。 「ふむ。川瀬はオルニトに行くのか。 親戚の方にでも会いにいくのか?」 「いえ、“なんとなく”鳥人として空の国ってのを見ておきたいんですよー」 かつて大陸狭しと支配を広げ、栄華を誇りそして衰退した鳥人の国、オルニト。 異世界旅行のパンフレットで見かける売りは、浮遊群島とそこからの絶景。 「オルニトか…治安は良くも悪くもないが、誰かと一緒に行かないのか?」 「水泳部の皆はラ・ムールの、えぇと砂漠のオアシスの町?パンフで異世界のラスベガスとか紹介されてるとこに行くらしいんですよー。オアシスで泳ぐ気なんかなぁ」 「ディセト・カリマ…か。 部員の皆に伝えておいてくれ、あそこのオアシスは遊泳禁止だと。鱗人にしょっぴかれるとな」 「えー?オアシスなのに遊泳禁止とかあり得ないっしょ?」 「きつく言っておくように」 所々龍鱗備える猫の手がポンと印を突く。 【川瀬翠の休学を認める】 「こっこがオルニトかー!」 ちくわを咥えた川瀬が素っ気のない石積みの枠から飛び出すと、これ見よがしに着地してみせた。 頭上斜め前方上空に巨大な岩の塊、浮遊する島が浮かぶ山頂がオルニトのゲート所在地である。 「ごっつい太い鎖! これ登ってあの島に行くんかなー」 「それは、時間がかかりすぎる。 鳥籠に、運んでもらうのがいい」 いつからそこにいたのか全く気にも触れなかった川瀬の隣。 透き通る羽とは対照的な夜の様な目と浮かぶ紅い瞳。ハーピー。 耳通りの良い微風の様な囁きの後、前方の粗末な小屋を鉤爪で指し示した。 「鳥人タクシーとかあるんだ。 ありがと…う?あれ?いない」 小屋を見た一瞬。ハーピーはまるでそこに何も無かったように消えていた。 「よっし。とりあえず島いこ島!」 「美味しいよー串だよー」 「串だよー美味しいよー」 小屋の他は何もないと思っていた矢先に飛び込む呼び掛け。 高山の山頂にはまるで似つかわしくない高架下にある様な屋台がそこに。 大葉で作られた暖簾には“絶品!オルニト串!”と色んな文字で書かれていた。 日本語もその中にある。 周囲まばらにいた観光客も、元気なそっくりな二人のハーピーの呼び声に誘われ屋台を覗いていた。 「お客さんだよー焼くよー」 「焼いたよーお客さんー」 「お?ジャージとか珍しいもの着てるね。 見たとこ鳥人さんだけど日本から里帰りか何かかい」 翼で火を起こしては駆け抜ける風精霊が器用に串をくるりと反転。 ぱたぱたと肉野菜見たことも無い“何か”を刺した串が香ばしい風を生み出す。 両脇に焼いては呼び掛けるハーピーを置いて、中央に陣取り接客と焼き、包装を器用にこなす日本人。 「故郷とかじゃないんですけど、旅行みたいなもんですよー。 あ、その“団子足虫串”下さいー」 川瀬が注文したのは、どう見ても初見では遠慮するであろうわさわさと足が生える丸い虫を野菜が交互に挟む串(醤油ダレ)だ。 「鳥人さんにはほんと虫串が人気だねぇ。はいよ!」 「えへへー。ありがとー」 川瀬が串をぱくり一口したその時 ─── とても美味!ではなく 「「 ソ ラ 」」 「っ!」 それまで串を楽しそうに焼き、歌うように呼び掛けをしていたハーピーの頭巾がはらりと落ちる。 二人して天を仰ぎ瞳は深海を思わせる黒い青に染まる。 二人が同時に同じ言葉、いや言葉“であろう”モノが綴る詩を唄う。 「お客さん方!何処でもいいからここから離れて下さい! “嵐”がきます!!」 男が即座に“閉店”の札を、まだ火の残る炭火焜炉に叩き置いた。 周囲の皆々がざわめき出す。 それもそのはず、空は快晴で積乱雲の一つも見当たらない。 「「 サ ラ ソ 」」 ズ ン ッ 突如空気は比重を増し頭を肩を押さえ落とす。 快晴だった空に雲の紐が幾重にも折り重なる。 渦を描く白と灰。 そしてその中央にゆっくりと開く ─── 「“風神嵐(ハピカトル・メル)”だーーっっ!!」 「…」 「…」 「う…ん?」 「焼くの?」 「焼くよ?」 「あれ?」 首を傾げるハーピー二人が屋台から転がり出て頭を抑えていた男をつんつんつつく。 周囲の人々もはっと我に返る。 空はまた快晴に戻っていた。 雲一つない。 「なんだこりゃー!?」 男が屋台の前にぽっかり開いた穴。人一人分がすっぽり収まる深い深い底の見えない穴を覗き込んで叫んだ。 「はいー?!」 轟々と耳と擦れ違う空気の抵抗音が無理矢理に川瀬を正気に戻した。 何故か川瀬は飛んでいる。飛び上がり続けている。 物凄い速さで。 足元には何もなく、何度も何度も雲を突き破りその上、その上へと。 「何何何何!」 いきなり巨大な雲に突入した川瀬は、その白で埋め尽くされた世界の中でとてつもなく巨大な光を見る、飛び越える。 ヴォァアアァァゴゥォォアァアアーーーーーッッ 爆音、激震、耳を劈く野獣の咆哮。 一瞬で白の世界が飛び散り霧散。 雲の晴れ行く最中、川瀬が上空へと通り過ぎたのは岩、壁、脈動する鱗、熱気、蒸気、雄雄しい灰色の角。 「ド…ラゴンっ!?」 超速度で数分を要して頭部を過ぎると巨大の範疇を越えた首の揺らぎ、運動が螺旋の荒風を巻き起こす。 川瀬はそれに巻き込まれ、天地も混濁のまま吹き飛ばされた。 「は、へ?」 重力。それは落下する我が身により認識を強める。 それまで上昇を続けていた川瀬の体が糸を切った様に下降を始めたのだ。 今度は何の力によるものでもない、慈悲も無い。 「ちょっ!ちょちょちょちょちょちょーーっっ!?」 思わず向いた眼下には山と森が待ち構えている。 そんなに時間をかけずに激突するであろう、何処かに。 思わず手足をバタつかせるが漫画やアニメの様に停止するわけもなく、ましてや川瀬の翼は空を飛べるものでもなく。 「ちょっと待つっしょ! お助けーーーーーっっ!!」 『助けて欲しいの? 助けたら“アリガトウ”ってしてくれる?』 胸から飛び出したのは光る“蒼”。 ミズハミシマの合宿からずっと身に着けていた“呼び水の珠”の首飾りだった。 次回【スカイパーティー】 所々に独自設定が入っています(ゲート立地など) 大ゲ祭でオルニトにやってきた川瀬にいきなりハプニング! ダイブ to ブルーからの地面にキッスかどうなるか!? 次回に続く! 嵐で一人だけ飛ばされた?巨大な竜の背中が山とか森なんかな -- (名無しさん) 2014-07-02 23 47 01 お、水の精霊さんが助けてくれるのかな。アリガトウ欲しがる精霊さんの喋り方可愛い -- (名無しさん) 2014-07-03 22 23 48 はっぴーセンサーの役割してる双子ハーピーのしぐさがkawii。審査みたいなことしているけど一ヶ月間の休みって夏休みと同じくらいだよね -- (名無しさん) 2014-07-03 22 57 49 異世界に行ったら地球の保険は適用外なんだろうなと実感した。風神嵐の影響が気になる -- (名無しさん) 2014-07-11 23 45 55 異世界と隣り合う地球の学生的日常がよく分かります。やはり鳥人とハーピーはオルニトに引き寄せられるものなのでしょうか。到着すぐに摩訶不思議に巻き込まれた川瀬の運命はどうなるのでしょうか -- (名無しさん) 2017-11-12 16 13 03 名前 コメント すべてのコメントを見る
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シリーズの0話的な位置づけでお願いします あいも変わらず核弾頭です。多分過去最高レベルの 気分が悪くなったらユーターンを推奨します 独自設定あり 幻想郷の話です 「ゆ!!ドス!!どうしてゆっくりをみんなゆっくりさせる聖戦を思いついたの?」 幹部れいむはドスに質問をした。今まで気になっていたのだろう。 「ゆ?れいむ?どうしても聞きたいの?」 「どうしてもだよ!!聞いたらみんなをもっとゆっくりさせるインスプレーションが働くかも しれないよ!!」 「ゆ~~しょうがないね!!ゆっくり聞かせてあげるね!!」 ドスは自分の昔の話を語り始めた 昔のゆっくり これはドスがまだただのまりさで、子ゆっくりの時から始まる。 まりさのいた群れは森の山奥にあり、そこは天敵ともいえる動物が一切なく 個体数が増えすぎても雨などの事故等でうまく数が調整された土地であった。 みな特に食糧に特に困るという事が今までなく、みな思うがままにゆっくりしていた。 それもあってか不慮の事故という事故以外で死ぬゆっくりがいないため 何十、何百世代に渡って思う存分ゆっくりしたゆっくりしかいなくなり いつしかゆっくりこそが世界の頂点に位置する生き物だと考え始めていた。 ただ単に天敵という天敵がいないため思いあがったのだろう、餡子の記憶からも 天敵の存在は消え切っていた。 「ねえお母さん?なんでゆっくりは世界でもっとも素晴らしい存在なの?」 当時子ゆっくりだったまりさは母であるまりさに聞いたことがあった。 その返答に母まりさはにこやかに答えた 「あそこにいるれいむをゆっくり見てね!!」 まりさはゆっくりしているまりさをみた。 そのまりさは木の切り株の上に乗り、森の木々から漏れる日の光を浴びて気持ちよさそうに寝ていた 「まりさの姿をみてごらん!!なにかかんじるでしょ!!」 まりさはそのゆっくりをよく観察した。 日光を浴びてつやつや光る髪、光を浴びてその白い肌をさらに白く感じさせる肌、 そしてそのまりさの顔の素晴らしいゆっくり比。 まりさはこのまりさのゆっくりした姿をみて確信した。 どんな絵さんよりもとってもきれいで、神々しくて、なにより、なんて言えばいいんだろう。 「そう、それがゆっくりしているということなんだよ!!」 お母さんまりさは続けた 「とってもゆっくりしているでしょう!!あのまりさがとてもゆっくりするために あの木さんは切り株さんになったし、あのまりさがゆっくりお昼寝できるように 森の木さんがわざわざちょうどいいおひさまを用意してくれたんだよ!!」 まりさは母の言葉に感動していた 「ここにはどれだけ食べても草さんやキノコさんがゆっくりに食べられるために たくさん、勝手にはえてきてくれるのよ!!だからおちびちゃんも勝手にはえてくる ごはんさんをできる限りたくさんたべてあげて、ごはんさんの幸せ~にしてあげたり ゆっくりお昼寝してその場所を提供してくれた生き物が幸せ~になるようにしてあげてね!!」 まりさは母の話に元気よくうなづいた。 「ゆっくりわかったよお母さん!!ゆっくりはやっぱり世界で一番素晴らしい生き物なんだね!!」 母ゆっくりもそうよとうなずいた。 ある日 まりさと母ゆっくりがゆっくりお話しながら歩いていると、ボロボロになったれいむが倒れていた。 「ゆ!!お母さん!!」 「わっかているよ!!れいむ、大丈夫?」 まりさ親子はボロボロで倒れているれいむに駆け寄り、れいむを起こそうとする。 必死にやったのが幸いしたのか、れいむはかすかに反応し、意識を取り戻した。 「ゆ・・・・ゆっぐり・・・じでいっでね」 れいむはボロボロの体にも関わらず挨拶をした 「ゆっくりしていってね!!」 「ゆっくりしていってね!!」 親子はつい反応してしまった。 「れいむ?一体どうしたの!!いま治療するよ!!」 そういうとまりさは近くに生えていた薬草をかみ砕き、液状にした後れいむの体に擦り付けた 「ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」 傷口に染みるのか、れいむは悲鳴を上げた。 れいむの傷は自然についたものとは思えないような傷だった。 あんよは真っ黒になっており、あの真っ赤なリボンは真白になっていた。 体はこれでもかという程傷口があり、中には何かで切られた跡があった。 薬草で応急処置を行った母まりさは大きな葉っぱを持ってきてその上にれいむを乗せて 群れの広場へ運び始めた。その間、まりさはれいむを励ましていた。 ―ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「今考えてみれば、あれがすべてのはじまりだったよ」 ドスまりさは楽しかった日々を懐かしく思う様な眼で語った。 「ゆ?ということはそれから始まったんだね!!ゆっくりのためのジハードが!!」 「そうだね、すべてのきっかけはそれからだったよ!!それからね・・・・」 ―ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 群れに着くと群れのみんなはあまりにもゆっくりできなくなってしまったれいむを 哀れんだ。 今村で唯一ある診療所で本格的な治療が行われていたが、あれだけの傷にあんよのあり様、 どうかんがえてもれいむが再びゆっくりできる日々はもうこないだろう。 診療所の入口でれいむを連れてきたまりさ親子は内心怒っていた。 一体だれがこんなひどいことするの!!ゆっくりをゆっくりできなくさせたら みんなゆっくりにも幸せにもなれないよ!!なんでそんなことするの!! これは群れのゆっくりみんながそう思った しばらくすると、診療所のパチュリーが入口から出てきた 「むきゅ!!れいむの治療がおわったわ!!傷は応急処置が良かったこともあってか餡子さんの 流失を止められたわ!!ただあんよの怪我はどうにもならなかったわ・・・。 あんなけが始めてよ!!たぶん自然につくものじゃないわ!!」 群れのゆっくりはやはりという顔だった。 「とりあえず、しばらくは絶対安静よ!! なんでこんな事が起こったかはぱちぇが聞いておくわ!!」 そういうとぱちゅりーは中へと戻って行った。 群れのみなはひと安心し、それぞれお家へ戻って行った まりさ一家もひと安心し、お家へともどっていき最後の平穏な一日を過ごした。 翌日、ボロボロになったれいむから話を聞いたパチュリーから語られた内容はゆっくり達には騒然たる ものだった。 そのれいむはとある広場を散歩している最中、みたこともないゆっくりプレイスをみつけ わざわざれいむのために開けられた入口からお家に入り、ゆっくりしていた所に 人間と呼ばれる生き物が侵入し、れいむのゆっくりプレイスに侵入し、ゆっくりプレイスを 奪うだけでなくれいむをここまでボロボロにしたのだ!! 群れのゆっくりは激怒した れいむをゆっくりさせるためにできたお家を横取りした生き物!! ゆっくりをゆっくりさせることをしない生き物、人間!! 群れのゆっくりは人間という生き物をゆっくりの力をもって駆除することを決定した。 ゆっくりの力・・それはゆっくりをゆっくりさせるために作用する力を人間に ぶつけるという力だった。 まあ早い話、ゆっくりをゆっくりさせてくれる風さんや日光さんがゆっくりをゆっくりさせる ために働いてくれるから、その力で人間が苦しんで反省するその様を見に行こうというものだ。 群れのゆっくりはその日の正午に群れを出発した。 その一群の中に、あのまりさ親子の姿もあった。 お母さんの教えてくれたことに深く感動し、それに反する生き物の存在を子まりさは その正義感から許せなかったのだ。 心配だからとついてきた母の他には、子まりさの妹にあたるまりさもついてきた。 妹まりさは尊敬する姉のまりさの雄姿がどうしてもみたいと駄々をこね、無理やりついてきたのだ。 参加したゆっくりのほとんどはゆっくりをゆっくりさせてくれるものが人間という生き物を 懲らしめてくれるからそれを遠目でみようというまるで遠足に行くような考えで いたため、参加したゆっくりの中には赤ゆっくりや子ゆっくりの姿もちらほら見えていた。 ゆっくり移動すること三日・・・・ 一群は人間の里に着いた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「今考えてみれば、世界はこのときからゆっくりに対して反乱をおこしていたんだよ・・」 ドスは懐かしくも、悔しいような顔でれいむに話していた。 「ゆ?ということはゆっくりできないことがおこったの?」 「そうだよ・・・・人間の里に着いたまりさ達は・・・・」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 人間の里についたまりさ達群ゆっくりは目の前の光景に驚いた。 風や太陽さんが人間をさんざん懲らしめているはずなのに、全く苦しんでいないのだ!! おかしい、そんなはずはない!!ゆっくりをゆっくりさせるために働く風さんや 太陽さんが全然人間さんを懲らしめていない!! なにやっているのぉぉぉぉ!!早くこらしめてよぉぉぉぉぉ!!! もういいよ!!働く気がない風さんや太陽さんのかわりにゆっくりが すこしだけゆっくりしないで働いてあげるよ!!終わったらゆっくりさせなかった分だけ 働いてね!! 長はそう考え、群れゆっくり達に指示をだした 「ゆぅぅぅ!!みんな!!風さんや太陽さんが全然ゆっくりをゆっくりさせるために働いていないよ!! 働かない怠け者の代わりにゆっくりが少しだけゆっくりしないで人間を懲らしめるよ!! ゆっくり準備をしてね!!」 群れゆっくりは一瞬怒った顔をしたが、すぐにいつもの顔に戻り、石を加えて近くにいた人間に 近づいて行った。 村の入口につくやいなや、長は近くにいた人間を呼びつけた。 その男は偶然なのか、れいむをボロボロにした張本人であった。 「そこの人間さん!!ゆっくりこっちを向いてね!!」 長の叫び声に男は気づいた 「ん?・・・・・ゆっくりの大群かよ・・・・。あのれいむ、仲間にこの場所を教えたな、ったく」 長は男の会話に気がつかなかったらしく、そのまま剣幕な顔で続けた。 「なんでれいむをゆっくりさせなかったのぉぉ!!ゆっくりをゆっくりさせるのが仕事でしょぉぉ!!」 「はあ?なんで俺がゆっくりをゆっくりさせなきゃいけないんだ?」 「ゆっくりをゆっくりさせるのはこの世界の仕事なんだよ!!まりさ達は寛大だから いま謝ってれいむやまりさ達をゆっくりさせたら水にながしてあげるよ!! そうだね、手始めにあの美味しそうなご飯をもってきてね!!人数分だよ!!」 そういって、男が育てていた野菜をよこせと要求してきた だが、男はわざわざゆっくりに合わせる必要などないため、答えはもちろん 「やるわけないだろうが!!」 「どぼじでぇぇぇぇ!!!」 「あれは俺が育てた野菜だ。それを自分のものだとぬかして食べようとするゆっくりを ボロボロにしたり、家を乗っ取ろうとするゆっくりをボロボロにして何が悪い。」 長は顔を真っ赤にした 「なにいっでるのぉぉ!!ゆっくりをゆっくりさせるのが義務でしょぉぉぉ!!! ゆっくりのために働くのがしごとでしょぉぉぉ!!風さんや太陽さんだってゆっくりのために 働いているんだよぉぉぉ!!それなのになんで人間だけさぼるのぉぉぉ!!」 「そんなもん聞いたことがない。思い上がりなら自分の群れの中だけでやってろ!!」 「ゆぎぃぃぃぃ!!ゆっくりせいさいずるよぉぉぉぉ!!みんな!!いくよ!!」 この言葉を合図に、ゆっくりの投石攻撃が始まった。 ゆっくりをゆっくりさせる仕事を放棄した虫さんに制裁するために日頃から練習していた投石攻撃 これで怠け者を制裁するよ!! ゆっくり達はそう考えていた。 だが、男は石をぶつけられ、切れた。 「ざけんじゃねえぞ饅頭どもがぁぁぁぁ!!!」 男は手にしていた鍬の刃を長まりさめがけて振りかぶった。 まりさは鍬の刃をもろにくらい、その場で死んだ 「人が優しくして付き合ってやったら石投げてきやがって!!もういい!!皆殺しにしたらぁ!!」 一方的な虐殺が始まった。 あるゆっくりはふざけるなと叫びながら体当たりをするも鍬に潰され、あるゆっくりは 子を守ろうとしてわが身を盾にし、鍬で親子もろとも死んだ。 あのまりさはなんでこんな事になったのか分からず、目の前の光景にただ呆然としていた。 なんでゆっくりを殺すの?やっちゃいけないことなんだよ?なんで?なんでぇぇぇ!! 「なんでごんなごどずるのぉぉぉぉぉぉ!!!!」 その刹那!!まりさめがけて鍬が襲う。だが、まりさは何かの体辺りを受けた。 母まりさが体当たりをしてまりさの身代りになったのだ。 母まりさは核を寸分違わずりょうだんされていたためか、何一言も残さず、その場で息絶えた。 「お、お、おおお、おおお、おおおがあざぁぁぁぁぁぁぁ!!」 まりさは叫んだ。怒りのあまりに体当たりをしようとしたが、誰かがまりさを掴んだ。 見知らぬ群れのゆっくりれいむだった 「おちびちゃん!!おかあさんはかわいそうだけどこんなところで死んじゃダメ!!」 そういうとまりさを咥えたまま森の方へ駆けて行った。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「お母さん・・・かわいそうだね・・・」 幹部れいむはドスに同情した。 ドスは気にしないそぶりを見せ、話を続けた 「ある意味、本当に大変だったのはこの後だったよ・・・。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「ゆがぁぁぁぁぁ、妹をばなぜぇぇぇぇぇ!!!」 「おねえぢゃぁぁぁぁん!!だずげでぇぇぇぇぇぇ!!!」 人間の追撃を命からがら逃れたものの、助かったゆっくり達は特に策もないため、お家に一旦引き返す 事にした。 だが、来る道中にはいなかった動物達が負傷したゆっくりから放たれる甘い匂いにひかれてきたのだ。 今まりさの目の前では、妹のまりさが犬に咬みつけれていた。 「おねえじゃぁぁぁぁぁん!!ばりざ、ばだじにだぐないぃぃぃぃぃ!!」 「大丈夫だよ!!おねえじゃんがだずげるよ!!」 まりさは必死に体当たりを仕掛けるも、犬には何のダメージがなく、ただ辺りにまりさの 悲鳴が響きわたるのみであった。 他の生き残ったゆっくり達は突然の襲撃者に驚き、まりさを置いてどこかへと逃げて行った。 そして時が流れ、犬は体当たりをしかけるまりさに飽きたのか、まりさを無視して妹まりさを 咥えたまま走り去っていった 「おねえじゃぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」 これが妹の最後の言葉となった。 取り残されたまりさは込み上げる感情を必死に抑えた。 まだ何かが襲ってくるかも知れなかったからだ。 だが、目から涙が止まることなく流れていった。 どうにか心を落ち着かせたまりさは4日かけてきた道をたどり、群れに戻ったが そこは地獄となっていた。 先に帰ってきたゆっくりの傷口から流れる餡子やクリームの匂いにひきつけられてやってきた 動物達が群をおそったのだ。 いままでこの群れに動物が襲ってこなかったのにはこの群れ自体が非常に幸運だったのもあるが、 なによりまともに餡子やクリームを流失するようなケガを負ったゆっくりが いままであまりいなかったからだ。 だが今回の場合、まりさを置いていったゆっくり達が先に帰り着いたはいいが、道中さまざまな 動物達がゆっくりを襲い、ほとんどのゆっくりが負傷したのだ。 その負傷したゆっくりから漂う大量の甘い匂いが今までよりつかなかった動物達を 招き入れる形になったのだ。 まりさは必死になって生きているゆっくりを探し始めた。 家に残ったお父さんれいむと妹達、長の奥さんのパチュリー、みょん、友達のちぇん みんな死んでいた。 一匹残らず、群れのゆっくりは死んでいた。 「ゆ・・・ゆ・・・ゆ・・・・・ゆがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」 まりさは叫んでいた。 ゆっくりをゆっくりするために肝心な所で怠けた風や太陽さん!! ゆっくりをゆっくりさせるどころかゆっくりを殺す人間!! 傷ついたゆっくりを襲う極悪非道な動物さん!! 復讐してやる、復讐してやる!! ゆっくりをゆっくりさせる仕事を放棄した怠け者を、ゆっくりをゆっくりさせない鬼畜どもを 地獄に叩き落としてやる!! こうして、一匹のAVENGER(復讐者)が誕生した。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「それからが苦労の連続だったよ・・・・。何度も群れを作って、何度も捕まって、 何度も人間にゆっくりできない目にあったり・・・」 「ゆぅぅぅ、大変だったんだね・・・・・」 ドスは暗くなり気味な顔でれいむにうなづいた。 「でもね、そんなドスについに転機が来たんだよ!!」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー それは、まりさがドスになり、これで何度目なのかわからない敗北を迎え、 絶望し、うちひしがれていたときだった。 「なんで、なんでこんなに頑張っているのに人間さんを制裁できないのぉぉぉ」 「それは世界がおかしいからよ」 ドスは誰かの声に驚き、声の主の方を振り向いた。 そこにはいままでみたこともないゆっくりがいた。 とても小さく見えたが小さいわけではないようだ。捕食種の一種だとも思ったが見たこともない。 どのゆっくりにもあてはまらないゆっくり・・・それが今目の前にいた。 「世界がおかしい?・・・・どうゆうこと?ゆっくり説明してね!!」 「いいわよ」 ドスはこの異形のゆっくりの目を見た瞬間、恐怖を感じた。 このゆっくりから何か禍々しいものを感じるよ。恨み?悲しみ?それに近いものを感じるよ でもなにより、このゆっくりは・・・この世界すべてを憎んでいる!! 「世界は本来ゆっくりをゆっくりするために存在していた。そうでしょう?」 「そうだよ!!」 ドスはうなづいた 「その世界がゆっくりを虐めだしたのよ。ゆっくりがゆっくりを平気で殺せるようにしむけ 他の動物や現象がゆっくりを虐めるように仕向けたりして、世界がゆっくりに対して反乱を 起こし始めたのよ。」 「ゆぅぅぅぅ!!!そんなの嘘だよ!!お母さんは言ってたもん!!世界はゆっくりを ゆっくりさせるためにあるって!!そんなデタラメ・・」 「じゃあ私は何?」 異形のゆっくりはドスに割り込んだ 「私はこの姿で生まれてきた。お父さんはお母さんを捨てて、お母さんはそんな私を育てるために いっぱい無理して美味しいご飯を集めたのが禍いして死んだわ。 それから私は仲間のはずのゆっくりにゆっくりできないという理由で虐められてきたわ。 何も悪いこともしていないのによ。それから今に至るまで、私は通りすがりのゆっくりから ゆっくりできないという理由から虐められてきたわ。ゆっくりできないという理由でよ。 そのゆっくり達がなんでそんな事をするのか、それは簡単よ。世界がゆっくりさせてくれないからよ 世界がゆっくりをゆっくりさせて、満ち足りているはずなら私を受け入れてくれるはずよ。 なのに私を拒絶する。だから私は世界を憎む。ゆっくりをゆっくりさせない世界を私は憎む。 これでもデタラメなの?」 ドスはこのゆっくりの言い分が正しいように感じてきた。 確かにゆっくりを追い求めて自滅していくゆっくりが最近増えてきたよ。 それも全て世界のせい?ならやることはただ一つしかないよ 世界を・・・・制裁するよ!! 「そう、分かったのね。本当の敵が。」 「ゆ!!分かったよ!!本当の敵が!!」 ドスと異形のゆっくりは互いの顔を見た。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「これがこの「ビッツ」を作った経緯だよ」 「ゆ~~、すごいゆっくりなんだねそのゆっくり!!でもどのゆっくりか分からないの?」 「今考えてみてもわからないよ!!でもね、人間と少し似ていたような気がするんだけど・・ そんなわけないよね!!」 ドスはこの異形のゆっくりとの出会いからこの「ビッツ」を作りだした。 あの異形のゆっくりとはそれ以来一度も会ったことはなかったが、 ドスは今もどこかで世界を憎んでいるのではないかと考えていた 「ところでれいむ、インスピレーションは沸いた?」 「ゆ!!もちろんだよ!!インスピレーションもやる気も一杯だよ!! じゃあドス!!昔話ありがとうね!!」 あの異形ゆっくりとの出会いがなかったら 「じゃあがんばってね、れいむ!!」 あの晩に会わなかったら 「ゆし!!ドスもがんばるぞ!!」 ゆっくりの悲鳴がこんなにも聞こえることはなかっただろう・・・・・ あとがき う~~~~ん、正直どうしよ!!なんかフルボッコされそう・・・・・。 作品がクロスされたことに舞い上がって調子こいたら・・・こんなすさまじい出来に・・・。 まあいいか!! 作中にでた異形のゆっくりですが、チル裏でちらっとだけ出た内容を元に作りました。 次回から本編を進めていきます。 ゆっくりAVENGER このSSに感想をつける